貴重な月に1度の面会交流でも、夫側が拒否すれば、それすらもかなわないこともあった。あやさんは、日本の裁判実務では、一方の親と子どもを引き離すこのような決定が普通なのだと知った時、「地獄に放り込まれたような気分だった」という。
現在、翔くんは6歳に成長。体を動かして元気よく遊ぶのが大好き。とても甘えん坊で、会えた時は「いつ帰るの?」とあやさんに不安そうに尋ね、一時も離れたくない様子でぎゅっと抱きついてくるという。「もっと一緒にいたい」という翔くんの気持ちに答えてあげられないことに、あやさんはつらい気持ちになる。
こうした親子の引き離しが生まれてしまう背景には、日本の単独親権制度の弊害が指摘されている。共同親権制度を導入している海外では、離婚後に子どもと別居することになった親でも子どもの年齢に応じて、面会交流のさまざまなプランが決められており、「子どもの利益」を中心に取り決めがされている。例えば、フランスやオーストラリアでは身体や情緒面の発達が著しい乳幼児は、離れて暮らす親との時間も密に取ることが推奨され、週3回、3~5時間または、週2回、6時間面会するプランに加え、長期休暇はさらに別途面会時間を設けるというオプションを付けることができるという。一方、日本では、何歳であっても「月に1回数時間」がスタンダード。乳幼児期の成長が著しい時期なども考慮してもらえないのが現状だ。
翔くんがもう少し大きくなって「なぜ自分は母親と好きなだけ会えなかったんだろう」と疑問を持つようになった時、あやさんは「父親が面会を制限していたことを知ったら、息子は傷つくでしょう」と想像する。そのうえで、「本当に子どものことを考えたら、片方の親を排除するような制度の運用は止めるべきです。子どもがどちらの親に気づかうこともなく『お父さんもお母さんも大好き』と素直に自分の気持ちを表現できるようにしてあげたいです」と訴える。
今の制度が改められ、翔くんの意思のもと、あやさんが長男とより自由に会える日はいつ来るのだろうか。その時、翔くんは何歳になっているだろうか。子どもの成長はあっという間だ。それを考えると、この問題が今の日本全体の喫緊の課題だということがわかる。
◎牧野佐千子(まきの・さちこ)
ジャーナリスト。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。読売新聞記者、JICA青年海外協力隊(アフリカ・ニジェール)、素粒子物理学の研究機関の広報など、異なるフィールドを渡り歩いた末、フリーランスに。夫はニジェールのトゥアレグ族。2児の母。