日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「日本のワクチンに対する信頼度の低さ」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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あと1週間もすると、多くの医療機関でインフルエンザの予防接種が始まります。今年は新型コロナウイルス感染症の流行拡大を受けてでしょうか、「今まで接種したことはなかったけれど、今年は接種しようと思う」という声が多く聞かれます。昨年より、インフルエンザの予防接種の予約数も多いようです。
日本でも、接種希望者が増えると見込まれているインフルエンザワクチンですが、世界では様々な研究が進んでいます。例えば、インフルエンザワクチンの接種とアルツハイマー病発症率の低下の関連性が示唆されています。マクガバン医科大学のAlbert Amran氏らが、9066名の健康記録のデータを解析した結果、少なくとも1回のインフルエンザワクチン接種は、アルツハイマー病発症率の17%低下しており、年に一度、インフルエンザワクチンを接種することは、アルツハイマー病の発症率をさらに13%減少させることと関連していたというのです。もちろん、インフルエンザワクチンがアルツハイマー病を実際に防ぐのか、あるいは単なる交絡なのか、結論がでておらず、今後の研究が必要です。
一方で、「インフルエンザの予防接種を希望しません」という声も多く聞かれます。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛によって、小児の定期の予防接種率の低下や遅れが、日本小児科学会の分析によりすでに明らかになっていますが、多くの国でも、ワクチンの重要性、安全性、有効性に対する信頼の欠如が原因となって、接種の遅れや、接種を拒否される事例が増えていることが大きな問題となっています。
2019年には、世界保健機関(WHO)は、ワクチン拒否を最も心配な10の公衆衛生問題の1つとしました。今年の9月、インペリアルカレッジロンドンのAlexandre氏らによるワクチンの信頼度の世界的な傾向についての大規模調査の結果がランセットに報告されましたので、紹介したいと思います。なお、この調査は、2015年9月から2019年12月にかけて、世界149カ国の284,381人を含む290の調査から得られたデータを用いて行われました。