「安倍辞任」で世界的投資家、ジム・ロジャーズ氏が動いた。本誌に対し、日本の金融商品「日本株ETF(上場投資信託)」を買い増したことを明かしたのだ。2013年に日本銀行・黒田東彦総裁の異次元緩和が始まり、今や日銀が時価39兆円分まで購入したETF。その行き着く先は……。
ジム氏も日銀の買い続行を見越して買い増ししたのだろうが、際限のない「官製相場」はさまざまなゆがみを生み、市場に負のマグマがたまり続けている。
市場では「日銀の出動ルール探し」が日常化している。どうなれば日銀がETFを買いに来るのかを予想して、それがわかれば先回りをして一儲けしようとする動きだ。
一時はTOPIXが午前中に「0.5%」程度下がることが目安になっていたというが、ニッセイ基礎研究所の井出真吾上席研究員によると、一つではなく複数の基準で動いている節があるという。
「0.2%の下落で買う場合もあります。日銀は株価水準を重視しているのではとするのが私の見立てです。節目となるような株価を割り込んでくれば何でも買いに来る。逆に高値の安定相場が続いていれば、0.5%下がらない限り買わない、などという感じです」
日銀の動きを読んで先回りするタイミングも、どんどん速くなっている。
「以前は午前中の下落幅を見て昼休みに注文を出していたのが、午前中の場が開いている最中から先回りを始めている動きが見受けられます」(経済アナリストの森永康平氏)
値下がりすると日銀が買い支えるため、下値が底堅くなってしまい、正常な価格形成が阻害されるというデメリットもある。投資家からすれば、「株価が下がれば買おうと思っているのに、一向に買い場がこない」という不満になるし、業績が悪くて本当は経営危機のはずなのに、株価が下がらないため経営者が「ウチは大丈夫」と勘違いすることがあり得る。
特定の業界に利益をもたらす点を問題視する声もある。ETFも投資信託なので日々、信託報酬という手数料が発生する。先の井出上席研究員によると、「日銀が支払う信託報酬は年間約500億円にものぼる」。運用会社などが“濡れ手であわ”で儲かる構図だ。
こうした弊害に、日銀の金融政策に詳しいファイナンシャルプランナーの小松英二氏は、市場全体に投資するので悪くない金融商品としつつも、客には素直には推奨しづらいという。
「だって、そうでしょう。今は日銀が買っているから投資家はハッピーでしょうが、弊害を考えると日本の市場が沈没していく道のように見える。どうにも腹の中で嫌な感じがするのです」
(本誌・首藤由之)
※週刊朝日 2020年10月2日号