作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、国際セーフ・アボーション・デーを前に、日本のリプロダクティブ・ヘルスについて考えます。
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女性の自殺者が増えているという。厚生労働省の発表によれば、今年8月は前年同月に対して日本全体で15%増えているのだが、女性に限れば40%も増えている。年齢別でみると、中学生は前年の4倍、高校生にいたっては7倍の女性たちが死を選んだ。
国連事務総長のアントニオ・グテーレスという人が、ここ数カ月、さまざまなところで「パンデミックは女性の置かれている状況を露呈し、悪化させてきた」と演説しているのを見聞きしてきた。新型コロナウイルスによって、女性たちが戦ってきた男女平等社会が100年分後退する可能性もある、とまで言っている。つまりは男性が支配する文化、男性が支配する経済、男性が支配する政治、家父長制社会で女性や子ども、少数者が危機に直面しているというのだ。
こういう発言は、もちろんこの人だけがしているわけではない。日本のメディアでは、女性や子どもたちが置かれている状況を特別に重視するような発言、報道はほとんどみないが、海外に目を向ければ、新型コロナウイルスがパンデミックに認定されてからすぐに、女性の健康、性暴力の問題は“陰のパンデミック”として対策が求められてきた。例えばイギリスでは病院に行かずとも、自宅でアボーションピル(経口中絶薬)をつかった中絶ができるようになるなど、望まない妊娠への対策がすぐに行われた。日本では、DVについては緊急事態宣言下でテレビ等でも広く告知されてはいたけれど、性暴力や望まない妊娠に関して、公的機関が積極的に発信したことはないのではないか。
自殺者の数字だけでは、分からない。それでも、自殺相談の現場にいる人や、リプロダクティブ・ヘルスの問題に関わっている専門家と話せば、10代の女性の自殺の背景に、望まない妊娠との関連がどうしたって見えてしまう。どれだけ怖かっただろう、どれほど不安だったろう。