利用者にとってはすばらしい仕組みだが、プラットフォーム側からみると危険きわまりない。利用者がゲーム機の垣根を越えられるようになれば、ゲーム機の独自性が失われ、ゲーム機が売れなくなりかねない。たとえば、もしスマホやプレステ4から「あつまれどうぶつの森」の世界を楽しめたら、ニンテンドースイッチを買う人は当然減ってしまうことになる。
エピックの独自性と技術力を示すもう一つの存在が、世界中のゲーム開発者がこぞって使用するゲーム開発ツール「アンリアルエンジン」だ。ライセンス使用料を基本的に無料としていることや利用のしやすさからあらゆるゲームの開発に使われ、家庭用ゲーム業界はエピックなしでは成立しないほどだ。
アンリアルエンジンに代表されるゲームエンジンは、立体的なコンピューターグラフィックス(CG)や登場人物、複雑で詳細な背景を手軽に作り出すことができるため、現在のゲーム制作現場では欠かせないツールだ。さらにアンリアルエンジンはテレビドラマに使われるCGを作成する際にも活用されるようになるなど、映像制作の現場にも普及が進みつつある。
■「基本無料」貫けるのか
フォートナイトが生み出した仮想空間は、新しいインターネット上のインフラであり、生活空間とも言える。IT各社も同様のインフラ実現を目指そうとしている。エピックがメタバースを実現させたのは、同社の基本無料や手数料率を下げるという企業姿勢にあるとも言えるため、アップルとの対立でこうした姿勢に変化がみられるのか、各社はエピックの動向を注視している状況だ。
手数料率の対立を超えてさまざまな事情から注目されているエピック対アップルだが、ともあれ、現在、iPhone利用者がフォートナイトを利用できなくなっているというユーザー視点は忘れてはならない。
技術的にはiPhone利用者がアップルのアプリストアを経由せず、フォートナイトを利用できるようにすることも不可能ではないはずだが、ITリテラシー(活用力)が高くない一般の利用者にはやはりアップルのストアが便利という事実は変えようがない。
世界中にアプリを配信するための広告などの費用が必要なアップルが、手数料率30%を下げる可能性は低いとみられる。エピックは今後、自由な競争の促進という大義名分を維持し続けるのか、それともアップルと同様に支配する側に回る未来が訪れるのか。GAFA並みの潜在能力を秘めるこの企業への関心は今後も高まりそうだ。(ライター・平土令)
※AERA 2020年9月28日号より抜粋