【日本屈指の難所「めがね橋」が見事】信越本線(横川~軽井沢)/群馬県・長野県/当時の土木技術の粋を集めて建設された、碓氷第3橋梁(通称「めがね橋」)。長さ91メートル、高さ31メートル。横川~軽井沢間にあり、重要文化財に指定されている(写真:松本典久さん提供)
【日本屈指の難所「めがね橋」が見事】信越本線(横川~軽井沢)/群馬県・長野県/当時の土木技術の粋を集めて建設された、碓氷第3橋梁(通称「めがね橋」)。長さ91メートル、高さ31メートル。横川~軽井沢間にあり、重要文化財に指定されている(写真:松本典久さん提供)

 廃線となった跡を歩く。ただそれだけなのに、夢中になれる。そこには往年の姿を彷彿させる痕跡も。「廃線先生」で知られる松本典久さんが、AERA2020年9月28日号から、とっておき9カ所の廃線跡を紹介する。

【写真特集】線路がなくても「ロマン」を感じる…とっておき廃線跡を写真で紹介(9枚)

*  *  *

 4連のアーチが美しいカーブを描く。聞こえるのは、鳥のさえずりくらい。

 都内在住で鉄道好きの女性(38)は昨年初夏、友人と一緒に「碓氷峠廃線ウォーク」に参加し、気持ちが解放されていくのがわかった。

 この廃線ウォーク、1997年に廃線となった「信越本線の横川~軽井沢」間を歩く人気イベントで、2018年10月にスタートした。

 横川~軽井沢の線路長は11.2キロ。枕木の上を一歩ずつ進んでいきながら、いくつものトンネルを抜け、日本最大級のレンガ4連アーチ橋、「めがね橋」を歩くのだ。女性は言う。

「廃線歩きの醍醐味は、時の流れに取り残されたような静けさを感じられることです」

 廃線跡を歩く──。もとは一部の鉄道マニアの楽しみ方の一つだったが、今や若い女性も夢中になるなど立派な「市民権」を得た。

■「アプトの道」を歩く

 しかし、列車は走っていないのに、使われなくなった鉄路に魅せられるのはなぜか。「廃線先生」として知られる鉄道ジャーナリストの松本典久さん(65)は、廃線探訪の魅力をこう語る。

「かつて運行されていた、あるいは運行しようとされていた鉄道が使われなくなり、今どのような姿になっているのか。それらを知ることすべてが楽しみなのです」

 そんな松本さんが数ある廃線の中でトップに挙げたのが、鉄道ファンにはお馴染み、冒頭で紹介した「信越本線 横川~軽井沢」間だ。

 信越本線の開通は1893(明治26)年。群馬県の高崎駅を起点に、長野駅と直江津駅を経由し新潟駅に達する327.1キロ。その途中にあったのが横川~軽井沢間(碓氷線)だ。

 碓氷線を全国に知らしめたのが、その険しさにある。線路長11.2キロだが、最大の高低差が553メートルの急勾配。これを克服するため、機関車の歯車と2本のレールの間の歯車をかみ合わせる「アプト式」が導入された。しかし1997年9月、北陸新幹線の高崎~長野間の開業にともない、100年余りの歴史に幕を下ろした。それが今は遊歩道「アプトの道」として整備され、誰でも気軽に歩くことができるようになった。途中にあるのが、碓氷第3橋梁(きょうりょう)、通称「めがね橋」だ。レンガ造り4連アーチ式で、日本の近代化を担った。松本さんは言う。

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら
次のページ