「俳優として幅を広げるために、今まで演じたことのない役にもトライしてきたい。そんなふうに考えていた2013年の夏、ニューヨークのブロードウェイで『キンキーブーツ』に出会ったんです。(中略)ローラというキャラクターの圧倒的な存在感に心を射抜かれてしまって。(中略)もしいつかこのミュージカルの日本版が上演されることがあれば、絶対にローラをやりたい、誤解を恐れずに言えば、やらなきゃいけないと思いました」(MORE 2016年8月号/26歳)
ローラは、さわやかなイケメンというそれまでの三浦さんのイメージを覆す役柄。ところが、それが当たり役となった。初演は2016年。舞台上では15センチのヒールのブーツをはきこなし、ボディラインを強調したきらびやかな衣装に身を包んだ。そして、衣装に負けないくらい豊かな表情をみせて、7キロ増量して鍛えた野太い声を操り、ときに力強く、ときに繊細に歌い踊った。
三浦春馬版ローラは観客の心をとらえたのはもちろん、読売演劇大賞の杉村春子賞と優秀男優賞を受賞。役者人生の転機となった。2019年の再演時に、初演時の心境を次のように語っている。
「とても幸せで、特別な毎日でした。物語や音楽が持っている力が、観に来られたかたや演者の気持ちを高めてくれるんです。毎回がチャレンジで、辛いと思ったことはありませんでした」(家庭画報 2019年2月号/28歳)
「ローラという役の魅力は、自分を貫く強さの裏に、脆くて繊細な部分があるところ。そのセンシティブな心の機微を、感情を歌に合わせなければいけないミュージカルで見せていく難しさを、初演ではまざまざと実感しました」(同)
もう一つ、転機となった舞台がある。時系列が前後するが、キンキーブーツの初演の前年2015年に上演された「地獄のオルフェウス」だ。映像のみならず舞台でも定評のある女優・大竹しのぶさんと共演し、初めて外国人演出家と作り上げた作品だ。
「表現を面白くするためには、熱量やセンスだけじゃなくて技術も大切なんだなって思うようになりました。(中略)がむしゃらなだけでいい時期は終わったなって思うようになりました」(ダ・ヴィンチ 2015年5月/25歳)
「もっと自分はできそうだと、勇気をくれた作品(『地獄のオルフェウス』のこと)ではあります。もっと貪欲に芝居を突き詰めればより多くの心人を動かせるんだと坂の上で感じましたし。(中略)やっぱりいいものに触れると成長が早い気がする」(週刊女性 2018年11月13日号/28歳)
このときに何かを掴めたのだろう。「キンキーブーツ」の初演前には、自信を持って、進むべき道が見えてきたと話している。