作家の室井佑月氏は、差別と戦う大坂なおみ選手に喝采を送る。
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大坂なおみ選手が、2年ぶり2度目となる全米オープン(OP)優勝をした。すごいことである。
そして、さらに素晴らしいのは、彼女は22歳にして、黒人差別抗議運動の象徴的言葉「BLM」の強い姿勢を打ち出すため、世界に向けて発信しつづけていることだ。
大坂選手は、全米OPの前哨戦だった「ウエスタン・アンド・サザン・オープン」でベスト4に進出するも、ウィスコンシン州で起きた白人警官による黒人銃撃事件に抗議して、準決勝を棄権する、として話題になった(出場した)。
それから、新型コロナ対策で試合の前後に着けているマスクに、警察による人種差別的な暴力の被害に遭った黒人犠牲者の名前を書いている。
このことについて、米国ではなく日本のSNSなどで、彼女に対する批判が起きている。
「スポーツに政治を持ち込むな」「純粋なスポーツの試合で政治的なパフォーマンスは控えるべきだ」「BLM暴動で家を焼かれた人、殺された人がいる」「BLMは極左暴力集団でテロリスト」
など酷(ひど)いものだ。彼女はBLMを訴えているけど、暴力を訴えているわけではない。なにより、スポーツは人であるからできるのだ。差別反対を訴えると極左になるの? だとしたら極右は差別容認? そういうことじゃないだろう。差別は人としていけないに決まってる。
1968年、メキシコシティーオリンピックにおいて、黒人選手が表彰台で拳を高く突き上げ、黒人差別に抗議したことがあった。これをIOC(国際オリンピック委員会)は「政治利用」と判断し処分をした。今でもIOCは政治利用のパフォーマンスや言動を断固認めないとしているらしい。
しかし、それからずいぶん時を経た。現在では人種差別は恥ずかしいことであるというのが、世界各国大勢の認識だ。
それに、全米OP側は彼女の運動を容認している。なのに、なぜ彼女を批判する日本人がいるのだろう。ハイチ系アメリカ人の父親と日本人の母親を持つ大坂選手。国籍は日本だ。彼女は超一流のテニスプレーヤーで、人種差別という愚かなことと戦っている。日本人として、とても嬉(うれ)しく誇らしいことではないか?