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新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大を、何とか抑えられている日本。しかしこれはあくまでも「偶然に過ぎない」と感染医の岩田健太郎さんは言います。思想家・内田樹さんとの対談本『コロナと生きる』(朝日新書)で説いた、コロナウイルスの感染拡大ロジックの可能性を、本書の一部を再構成してお届けする。なお、対談は2020年7月6日に行われました。
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■コロナウイルスの偶発性
内田:海外では、韓国、台湾のように感染を抑え込むことに成功した国もありますね。
岩田:そうですね。韓国もそうですし、中国もほぼほぼ抑えていますし、ニュージーランド、オーストラリア、タイ、ベトナム。
内田:ベトナムもそうでした。
岩田:シンガポールもけっこう抑えています。あと、ヨーロッパではアイスランドですね、成功しているのは。
内田:そういった国々も、第2波を起こさないために、これからやはり鎖国的にふるまっていくんでしょうか。
岩田:そうとも言えません。むしろ、旅行そのものは再開しようとしているみたいですね。例えばニュージーランドとかは「観光」というのがすごく大きな国の資源ですから。
ただし、感染対策をほったらかして観光優先にするというのではなく、むしろ経済を回していくために感染対策を徹底的にやる、というスタンスです。このあたりがアメリカやブラジル、そして一部の日本の方々と意見が異なるところですね。
日本はかなり、「自分たちは感染対策がうまくいっている」みたいなヘンな神話がこの半年でまかり通っていて、僕は非常に危険だと思っています。日本では、高齢者の療養施設などでの感染流行がとても少なかったという運の良さがあったんです。数少ない流行例が、じつは神戸であったんですけど。
内田:高齢者施設での感染は少なかったんですか。
岩田:非常に少なかったんです。それに比べて、アメリカはひどい状態でした。フロリダやワシントンのナーシングホームで次々に感染が起きて、かなりの方々が亡くなられています。同様に、フランスやドイツの高齢者施設でもクラスターが起きていました。日本でこうした高齢者の感染が多発しなかった理由は、単に「運が良かった」だけではないかと。ウイルス学的には、まだまだ根拠が見えていません。