間近で接したトランプ大統領の無節操ぶりを暴露する書として世に問われたのが『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』だ。著者のボルトン氏に日本語版の監訳者で朝日新聞の梅原季哉論説委員がインタビューした。
【写真】ワシントンの大統領執務室でトランプ大統領と会合したボルトン氏
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ワシントンの政界で、ジョン・ボルトン氏(71)ほど、この1年余りで境遇が激変した人も珍しい。2019年9月まではホワイトハウス最高幹部の一角、国家安全保障担当の大統領補佐官を務めていた。歴代、キッシンジャー氏ら外交のプロがずらり、外交安保政策の司令塔というべきポストだ。
ボルトン氏も18年4月に着任すると、とかく脱線気味のトランプ政権の諸外国との関係を切り盛りしていた。だが、ご多分に漏れずやがて大統領の不興を買うこととなり、政権を去った。
その後、ボルトン氏がトランプ氏との軋轢(あつれき)や内幕をぶちまける回顧録を執筆中、ということがわかると、政権との関係は一気に冷却化した。
米国で政権幹部を務めた要人が回顧録を書くことは珍しくないが、まだ政権の座にある大統領について、最近までごく内輪にいた人物が、克明にダメ出しする本を出すというのは異例だ。
差し止めようとした政権側との法廷闘争にまで発展した攻防のあげく、この本が出ると、実際にトランプ氏の逸脱ぶりを浮き彫りにする細かな描写が話題になった。
出版後も、9月には、政府による出版前審査(元政府高官らが回顧録を出す際、機密情報が含まれていないかチェックする過程)に携わった職員が、出版妨害に加担するようホワイトハウスから圧力をかけられていた、と報じられた。政権側にとってそれだけいらだちの種ということが改めて浮き彫りになった、焦点の一冊だ。
筆者が監訳した日本語版が緊急出版されたのを機に、ボルトン氏にリモート取材し、本をめぐる裏話などを尋ねた。
──なぜ今回の本を書こうと思ったのですか。
危機にどう対応するか歴史から学ぶには、なるべく詳細が記されていたほうがいいからです。意思決定を下す人物の思考回路の中で、どんな要因が作用し、関係者がどう協力したか、あるいはしなかったのかを把握することが大変重要です。
それに私としては、この本を2020年大統領選の前に届けたかった。
私の結論は「ドナルド・トランプは大統領として適格ではない」ということでした。ただし、私がこの本で示したかったのは私の意見ではなく、何が事実かです。有権者は本を読んで事実を評価し、どうするかを決めることができますから。