延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
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舞台『十二人の怒れる男』
舞台『十二人の怒れる男』

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、舞台『十二人の怒れる男』。

【写真】舞台『十二人の怒れる男』

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 ニューヨーク地方裁判所で、ある少年が父殺しの罪で裁判にかけられた。無作為に選ばれた12人の陪審員に評決が委ねられる。有罪であれば死刑が確定する。ただし、全員一致が条件。法廷に提出された証拠、証言は少年に圧倒的に不利なものばかりである。

 予備投票では有罪11票、無罪1票。まったく違う人生を歩んできた男たちが陪審員に選ばれ、うだる暑さの中、一つの部屋に閉じ込められ……。

 当初テレビドラマとしてアメリカで放送された『十二人の怒れる男』はヘンリー・フォンダを主役に映画化、すぐれたストーリーは世界各都市で舞台化され、演じる者にとっても観る者にとってもあまりに有名な筋書きだけに、作品そのものの出来が問われる演目となっている。

 今年から芸術監督に松尾スズキを迎えたBunkamuraシアターコクーンで本作を観た。東京ではコロナ感染者数の高止まりが続いている。感染予防のため、厳重でものものしいエントランスの雰囲気そのままに、こちらも幾分緊張しながら開演時間を待った。

 汗を拭いながら俳優たちが登場する。中央の舞台を客席が囲む「囲み舞台」。ひと目で12人の男たちの生い立ち、職業、趣味、所得がばらばらだとわかる。そんな彼らの意見の一致を見ることはできるのだろうか。無罪までの道のりが決して平坦ではないことを予感してぞくぞくした。容疑者の少年の顔は見ないまでも、既にここで観客も陪審員になっている。

 陪審員番号1番から順にベンガル、堀文明、山崎一、石丸幹二、少路勇介、梶原善、永山絢斗、堤真一、青山達三、吉見一豊、三上市朗、溝端淳平という顔ぶれ。手練れの俳優たちの容赦ないぶつかり合いが目の前で始まる。俳優人生を賭けたと思えるほど凄まじい演技は格闘技のようだった。これはオンラインではなかなか味わえない。口角泡を飛ばし、荒々しい仕草と妥協なき議論が一筋縄ではいかない人生模様と、だからこその人生への屈折と深い慈愛を教えてくれた。

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