

角川春樹監督の10年ぶりにして“最後”の監督作「みをつくし料理帖」が公開中だ。長い映画人生で目指したものとは何か。AERA 2020年10月26日号から。
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「犬神家の一族」(1976年公開)以来、日本映画の歴史を塗り替えてきた。その角川春樹監督(78)が、「最後の監督作」と公言するのが、公開中の映画「みをつくし料理帖」だ。
「観た人の10人中9人に言われるんです。『まさか角川さんがこんな映画を作ると思わなかった。やさしくて、丁寧だ』と」
角川さんは穏やかに微笑んだ。原作は自身が発掘した作家・高田郁のベストセラー小説。ときは江戸後期。享和2(1802)年の大坂の大洪水で両親を失ったヒロイン・澪が女料理人として身を立てていく物語だ。これまでに北川景子、黒木華の主演で4度ドラマ化されている。
「自分で撮るとは想像もしていませんでした。これまで多くの会社が映画化を目指したが、すべて流れてしまった。それなら自分で製作しようと決意したところ、妻から『あなた、製作だけでは意味がない。監督もやりなさい』と言われたんです」
■マジックをかけるから
物語の軸になるのは、洪水で生き別れた二人の少女の友情だ。澪役に松本穂香、幼なじみで花魁(おいらん)となった野江役に奈緒を起用した。
「キャスティングの段階で穂香は知っている人は知っている、という新人。奈緒にいたっては無名でした。配給の東映は二人の起用に不安を持っていた。でも、私は一言『映画の公開前までには、必ず二人をブレークさせる』と言い切った。『角川春樹のマジックを見ていなさい』と」
俳優発掘の眼力は誰もが知るところだ。「野性の証明」のオーディションで見いだされた薬師丸ひろ子、「時をかける少女」でブレークした原田知世……。
「ほかにも宮沢りえ、浅野温子、安達祐実、全部スターにしましたからね。まして二人は新人ですが、初めて演技をするわけじゃありません。演出次第です。だから、断言したんです。あとはマジックをかけるから、心配ない、と」