数々の名作を世に生み出した角川春樹監督“生涯最後”の監督作「みをつくし料理帖」が公開中だ。「角川映画」が日本の映画界にもたらしたものとは何か? 著書に『角川映画 1976−1986 増補版』などがある作家・編集者の中川右介さんと、評論家で映画監督でもある樋口尚文さんの2人が語った。AERA 2020年10月26日号から。
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■日本映画に次世代を作りフォーマットを変えた
中川右介:一般に「角川映画」とは、角川春樹さんが陣頭指揮を執って映画製作をしていた「犬神家の一族」(1976年)から「REX 恐竜物語」(93年)までと定義されています。
角川さんは当時誰もやっていなかった映画のテレビコマーシャルを集中的に行い、同時に角川文庫の宣伝もし、音楽もヒットさせるというメディアミックスの手法を取り入れました。現在の映画の商業的なフォーマットはすべてこれを踏襲したものです。派手な宣伝活動は、当時、映画、出版業界両方から批判され、批評家の評価も散々でした。風向きが変わったのは81年の「セーラー服と機関銃」あたりから。82年の「蒲田行進曲」は批評家にも絶賛されました。
角川さんは「おもしろそうだ」と思うと先入観にとらわれず、新人俳優や監督でも大胆に登用する。柔軟さやプロデュース能力はもちろん、監督としても自身の文体を持っている方です。
最大の功績は日本映画界に“次の世代”を作ったことです。若い監督が映画を作る場を作り、若い観客を作った。僕を含め、70年代の中・高校生は角川映画がなければ、いま日本映画を観ていなかったでしょう。
●中川さんが選ぶ角川映画ベスト5
1時をかける少女(大林宣彦監督、83年)/2Wの悲劇(澤井信一郎監督、84年)/3犬神家の一族(市川崑監督、76年)/4汚れた英雄(角川春樹監督、82年)/5復活の日(深作欣二監督、80年)
■業績への信頼と畏敬の念が作品に立ち現れている