ピカソというアーティストの代表作をタイトルに、人間の業、人生の行く末を見つめる群像劇で、出色は何といっても主人公の母マリアを演じたキムラ緑子だった。
元領主の夫を持つ保守派の彼女は、娘に対して強い愛情を抱くと同時に、外に目を向けはじめた娘を嫌悪する。心が引き裂かれるほどのその思いはPARCO劇場の深紅の絨毯とシンクロし、無差別爆撃をあらかじめ許容する場面では闘牛場にいるかのような緊迫感だった。キムラはゲルニカの悲劇を広島・長崎で起こった惨劇に結びつける想像力を観客に与え、演出家・栗山の言葉「地球の記憶」の再現に大いに寄与していた。
ゲルニカに住むバスク民族党の若者、ハビエルの苦悩を全身で演じたのは玉置玲央。僕のラジオドラマの常連でもある彼は、「青春」の「青=憂鬱」をヒリヒリする切迫感で表現し、ひとりの若者の人生をこうも変えてしまうのかという戦争の残酷さを示していた。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2020年11月6日号