TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、舞台『ゲルニカ』。
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今年新装なったPARCO劇場に足を運んだ。
席と絨毯の鮮やかな深紅はそのまま継承、客席はどこからでも舞台が見渡せ、観客の想像力を刺激する見事な劇場だった。
インターミッションにバルコニーに出れば小雨に霞む渋谷の夜景を眺めることができ、さながらコロナ禍と闘う演劇の宮殿という趣もあった。
そんな中、次々に話題作を発表する栗山民也演出の芝居を観、大量虐殺を主題とした重量級の作品に陶酔した。
「人間の記憶、土地の記憶、時間の記憶、地球の記憶。それは、演劇という装置で作り得るものだと思う。そう信じていたいんです」
演目名は『ゲルニカ』。バスク地方を昨年旅したばかりということもあり、パンフレットに記載された栗山のこの言葉が胸に迫った。
『ゲルニカ』はパブロ・ピカソの作品と同名だ。スペイン内戦で史上初の無差別爆撃の惨劇を知ったピカソは虐殺という人間の仕業を「怪物」として描ききった。
「悲惨な歴史を見つめながら、演劇はこの現実と常に向き合っていくべき」と栗山は言う。
バスクへの僕の旅は夏季休暇ということもあり、惨劇に思いを馳せることはなかった。でも彼の演劇に、清潔で近代的な美術館や現地の人がゆったりと散歩する海辺やピンチョスや白ワインを楽しむ足元の下層に、とんでもない悲劇が存在していたのだと改めて知った。
そういえば、アーネスト・ヘミングウェイはこの内戦を題材に『誰がために鐘は鳴る』を書き、戦場を取材したロバート・キャパの写真『崩れ落ちる兵士』はアメリカの『ライフ』に掲載されたのだ。
ゲルニカの元領主の娘で何不自由なく生きてきた主人公(上白石萌歌)は自身の婚礼の朝を迎えていた。そんな日にスペインを二分する内戦が始まる。
フランコ将軍のクーデターで旧体制派と新体制派が激突、フィアンセは新体制派として戦線に向かい、彼女はそこで初めて自分の国で何が起こったのかを知る。