この臓器と臓器の関係性に着目するエクソソームの発想は、実は私が提唱するホリスティック医学につながるものです。
これまでも述べてきましたが、西洋医学は臓器別に病気を治療することには長(た)けています。ところが、病気になった臓器とそれ以外の細胞、臓器との関係にはあまり着目しようとしません。一方で、東洋医学では臓器と臓器の関係性を重視します。「気」や「経絡」という概念を用いて、臓器間のネットワークを解明しようとするのです。その部分で、人間をまるごととらえようというホリスティック医学に相通じるところがあります。
臓器と臓器がネットワーク化されているというエクソソームの考え方は、西洋医学にとって画期的なものと言えるのではないでしょうか。
がん治療の面から言えば、がん細胞を直接、ターゲットにしていないところに利点があります。化学療法などのように、がん細胞と同時に正常細胞を攻撃してしまうということがないですし、がん細胞に耐性を持たせてしまう恐れもありません。
今後のエクソソーム研究の発展に大いに注目したいと思っています。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2020年11月6日号