日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「子宮頸がんワクチンの日本の現状」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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大学1年生の夏頃だったと思います。母から「子宮頸がんを予防してくれるワクチンが接種できるようになったらしい。婦人科の先生のところに行って、接種できるなら接種してきなさい」と言われ、よくわからないままに婦人科を受診し、ワクチンを接種した記憶があります。
母は当時、子宮筋腫による月経過多でひどい貧血に悩まされており、婦人科に通っていました。子宮の病気を患い、子宮を全摘することになった母は、「子宮頸がんを予防できるのならワクチンを接種した方がいい」と思ったそうです。医学部に入学したとはいえ、医学の勉強はまだ始まっておらず、疾患のことなど何一つ知らなかった私は、「母が勧めるなら接種しておこうかな。」と軽い気持ちで子宮頸がんワクチンを接種しに行ったのですが、3回も接種しなければならないこと、そして1回あたりの金額が(たしか)1万5千円ととても高額であったことに驚いたことを覚えています。
子宮頸がんのほとんどは高リスク型のヒトパピローマウイルス(HPV)に持続的に感染することで発症します。HPVには100種類以上の型があり、主に性交渉によって感染します。子宮頸がんの原因になる高リスク型は少なくとも13種類あると言われていますが、このうちのHPV16型と18型の2種類が子宮頸がんの原因の7割を占めているのです。
このHPVの感染予防に効果的なのがHPVワクチンです。子宮頸がんワクチンとも呼ばれており、こちらの呼び名をご存知の方も多いのではないでしょうか。実は、HPV感染は、子宮頸がんだけでなく、肛門がんや中咽頭がんなどもが関連していることも判明しています。HPV関連がんを予防するために、米国や英国、カナダ、ブラジルなどでは、女子だけでなく男子への接種がすでに推奨されているのがHPVワクチンなのです。世界では高リスク型である9つの型のHPV感染を抑える9価のHPVワクチンが標準となっています。