作家の下重暁子さん
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写真はイメージです(Getty Images)
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 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、総理の妻のあり方について考えた。

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 菅総理の初めての外遊に、奥様が同行された。最初の訪問地、ベトナム到着時、夫より一歩下がってタラップを降りてきた。出すぎないように控え目に控え目に。

「出すぎない妻」は週刊朝日の先週号にもあったが、海外の人たちは、不思議に感じるようだ。

 海外に住む友人によると、日本の皇室でも皇后や妃殿下が一~三歩下がって移動するのがよくわからないという。皇室ならしきたりということもあるが、一般人の場合、そこまでへりくだる必要はあるのか。ただ、日本でもまだ地方へ行くと、政治家は有権者に腰を低くし、ましてや奥様となると気をつかうらしい。

 ある政治家と結婚した、私の早稲田の同級生の女性が言っていた。

「はじめて夫が立候補した時は、田舎のこともあって土下座したのよ」

 彼女はチャキチャキの横浜っ子のお嬢さんだったから、よほど驚いただろう。

 私にも九〇度腰を折ってお辞儀するので「やめてよ! 友達じゃない」と言った憶えがある。習い性になってしまったのだろうか。

 真理子夫人にお願いしたい。余分な気をつかわず、堂々と自分らしくあっていただきたい。今や美徳でも何でもない。海外のみならず、日本の若い人たちから見ても異様に見えるようだ。

 それに、タラップを降りるのは危ない。ヒールのある靴の場合は、男がエスコートするのは当たり前、実は私もハラハラして見ていた。もともとヒールのある靴は男にエスコートさせるために出来たものだともいう。

 男女平等ランキングで、日本は一五三カ国中一二一位という結果。「やっぱり」と思われても仕方がない。

 その点、前総理の昭恵夫人はあっけらかんとして楽し気に夫と手をつないでいた。それが自然だった。

 歴代の総理夫人で見事だったのは、佐藤栄作夫人の寛子さん。首相公邸に二度ほど伺ってインタビューしたことがあるが、山口の方言のままざっくばらんに話されて、人を惹き込む方だった。

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話術も夫人としての仕事の一つ?