
AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
佐藤闘介さんによる『その男、佐藤允』は、「独立愚連隊」シリーズなど、アクション俳優として活躍した佐藤允のすべてを息子にして映画監督の著者が描いたもの。東宝時代の俳優たちが語るインタビューや出演作品のフィルモグラフィー解説や、貴重な写真も満載の一冊だ。著者の佐藤さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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表紙のインパクトで思わず手に取った。機関銃を構えた不敵な面構え。『その男、佐藤允』と迫力みなぎるタイトル。本そのものが映画の匂いを放つ。プログラム・ピクチャーと呼ばれていた大衆娯楽映画全盛時代の空気が甦(よみがえ)る。
佐藤允(1934~2012)は俳優座養成所を経て東宝に入社。岡本喜八監督の「独立愚連隊」の主役に抜擢されたのを契機にアクション俳優として人気を博した。和製リチャード・ウィドマークともチャールズ・ブロンソンともいわれた個性的な顔立ちでアクの強い役柄をこなす一方、1980年代以降は大林宣彦、相米慎二、今村昌平作品でも存在感を発揮した。本書は息子で映画監督の佐藤闘介さん(55)が父親・佐藤允に愛を込めて、その軌跡と素顔を描き出した一冊丸ごとドキュメント・ザ・サトウマコトといえる作品である。
「父は生まれながらにして、俳優になるべくして俳優になった人です。本人に自宅でインタビューしたのは2008年でした(本書の冒頭に収録)。それがそのままになっていたので共演が多かった俳優の皆さんに相談したところ快くインタビューに応じていただき、岡本みね子さん(岡本喜八監督の妻)は監督と父との関係を語ってくれました」
本書の魅力は同時代に共演した俳優たち(夏木陽介、水野久美、江原達怡)がなつかしさを込めて語る数々のエピソードだ。日本映画の活気を撮影所(特に東宝は上下関係のない明るさが特徴だったという)が支えていた良き時代の息吹が伝わってくる。