今年の新語・流行語大賞にノミネートされた韓流ドラマ「愛の不時着」。ハマった人は多いようですが、京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師もその一人。ただし、職業柄、なんでも患者さんへの説明に使えないかと考えてしまうそうです。ドラマを見て、思いついた医学情報を語ります。
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4月の緊急事態宣言からしばらくしてネットフリックスを契約しました。お目当てはドラマ「愛の不時着」。
「はじめの4話を我慢すると面白くなる」というネットのアドバイスを信じ、眠い目をこすりながら最終話までやっと完走。10話くらいのときに「いったい自分はいつハマるのだろう?」と自問したのですが、最終話(全16話)まで見終わったうえにこうやってコラムにも書くようになった私はすっかり「愛の不時着」にハマってしまった人間なんだろうと思いました。
ドラマを見ていない人のために、ネタバレしないよう簡単に内容を紹介します。
主人公は韓国の財閥令嬢であるソン・イェジン演じるユン・セリ。彼女は経営する会社の新商品テストのために自らパラグライダーに乗ります。ところがセリのパラグライダーは竜巻にまき込まれ、不時着した先は北朝鮮と隣接した非武装地帯。北朝鮮側で見張りをしていたヒョンビン演じるリ・ジョンヒョク大尉と出会い、禁断の恋が始まるというお話です。
ドラマの見どころはたくさんあるのですが、私はユン・セリがリ・ジョンヒョクに「もう一生会えないの?」と号泣するシーンが大好きで、すっかりソン・イェジンのファンになってしまいました。
さて、ここまでは韓流ドラマにハマった中年医師の話なのですが、私は職業柄、なんでも患者さんの説明に使えないかと考えてしまいます。
こじつけのようですが、「愛の不時着」の韓国と北朝鮮の人の往来の厳密さは「免疫」に似ています。
ユン・セリのように、たとえ事故であったとしてもパラシュートで不時着という形で韓国から北朝鮮に侵入すれば当然敵とみなされ命を狙われます。しかし、きちんと手続きを取り出入国すれば北朝鮮といえども友好的に迎えられます。
この部分が人の免疫システムにそっくりなのです。
人間の体も正規のルートで体内に入ってくるものは、体内の免疫も友好的に迎えます。正規のルートとは口から入ってくることです。口から入ってくるものは、ほとんどの場合食べ物であり、栄養となるものです。だから受け入れなくてはいけない。反対に、これらをすべて敵と認識してしまうと人間は生きていけません。つまり、経口で摂取したものに免疫は寛容です。これを経口免疫寛容と呼びます。