感心したのは小池真理子と桐野夏生だった。このおふたりの本の装幀にはほとんど外れがない。どれも上品で色調と構成に落ち着きがあり、タイトル文字もよく考えられている。小池真理子なら『モンローが死んだ日』か。なにげない窓の写真にタイトルをのせた装幀がシックで静謐(せいひつ)だ。
桐野夏生は『アイムソーリー、ママ』か。強い色調の中にアートを感じる。小池さんも桐野さんも装幀を編集者任せにはしていないはずだ。
ほかにもみごとな装幀の本はいっぱいある。
東野圭吾の『白夜行』。くすんだ黄色に白い箔(はく)をのせたタイトル文字が映える。
宮部みゆきは『ブレイブ・ストーリー』上下か。ポップかつアートだ。
高村薫は『空海』。清澄、孤高を感じる。
道浦母都子は『光の河』。著者が智内兄助の絵を依頼したと訊(き)く。
朝井まかては『雲上雲下』。装画がかわいい。
ちなみに自作では文庫本の『国境』上下だろう。装幀家・多田和博の最高傑作だと思う。たーやんとは数限りなく麻雀をしたが、彼の本分はあくまでも装幀であり、その作品はどれもすばらしい。たーやんは必ず本を読みとおしてから装幀をした。
自作の『後妻業』で、たーやんがよめはんの父親をモデルにした絵を使ってくれたのは、わたしのたっての頼みだった。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2020年11月20日号