■ヘンテコ動作で元気に

 例えば、不安を書き出すという方法は、書く際に前頭葉を使うため、感情にかかわる後脳の活動がセーブされて不安が和らぐ効果があるとみられる。怒っている人や不愉快な人に会ったとき、「今朝、奥さんと喧嘩したのだろう」などと捉え直すテクニックでも前頭葉が働き、恐怖や怒りが抑えられるという。

「脳をだます」と「気をそらす」を掛け合わせた最強の方法がある。同じ側の手と足を同時に出すスキップなど、ヘンテコな動きをすると元気度がアップするという米サンフランシスコ州立大学の研究がある。堀田さんはこう解説する。

「論文では脳の働きまで言及されていませんが、変な動きをすると脳が『楽しい』と勘違いするし、変な動きは頭も使うので気もそらされる。相乗効果で元気度が向上したと考えられます」

 香りも、脳機能に変化を及ぼしてストレスを抑制し、不安を軽減することがわかってきた。

 通常、ストレスを受けると神経の生存・維持に働く脳内因子が減少して海馬で神経細胞死を引き起こすが、前出の増尾さんがラットに挽きたてコーヒー豆の香りをかがせる実験をしたところ、先の脳内因子の減少を抑えられたという。

 ヒノキに多く含まれるα‐ピネンという匂い物質をラットにかがせたときは、多幸感につながる「ドーパミン」を作る酵素の遺伝子発現量が脳内で増えた。例えば、森林浴をすると、香りが脳に直接影響し、ストレスを抑制する効果があるのだ。

 右は手軽で効果が実証されたストレス軽減法の例だ。毎日でも試したいが、注意点もある。

「脳には常に新しい刺激が必要で、ルーティンのように毎日行うと脳が馴化(じゅんか)してしまい、効果が得づらくなります。一つだけでなく、いろいろ試すことがポイントです」(堀田さん)

(編集部・深澤友紀)

AERA 2020年11月16日号