ディラン自身、サム・ペキンパー監督の西部劇『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』のサウンドトラックを手がけ、その中の『天国への扉』は数多くのアーティストにカバーされているが、ビリー・ザ・キッドも強盗を繰り返すアウトローだった。ロックンロール・ギャングスターの映画を作りたかったとロバート・バドロー監督が言うこの作品のラストには、犯人と人質の女性銀行員が仲睦まじく手をつなぐシーンも用意されている。

 犯人はトランジスタラジオも常に持ち歩いていた。『明日は遠く』『今宵はきみと』『トゥ・ビー・アローン・ウィズ・ユー』。ディランの名曲を流す小さなラジオは、犯人と人質、そして襲撃事件の行く末を見守る市民の心を音楽でつないでいたが、ラジオが強盗事件の真ん中にあるのも70年代のひとつの風景なのかもしれない。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2020年11月20日号

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?