延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
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映画『ストックホルム・ケース』 (c)2018 Bankdrama Film Ltd. & Chimney Group. All rights reserved.
映画『ストックホルム・ケース』 (c)2018 Bankdrama Film Ltd. & Chimney Group. All rights reserved.

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、映画『ストックホルム・ケース』について。

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 誘拐や監禁された被害者が、犯人と長い時間接することで犯人に好意を持ったりする心理現象を「ストックホルム症候群」と呼ぶが、その語源となった銀行強盗事件を題材とした映画が『ストックホルム・ケース』だ。

 銀行襲撃の映画は『明日に向って撃て!』やアル・パチーノ主演『狼たちの午後』が有名だが、本作は北欧を舞台に自由の国アメリカに憧れる犯人が主人公である。犯人の仕草や人の良さそうな言動がどことなく牧歌的で、クライムサスペンスというよりある種青春映画のような印象だった。

 1973年の夏、何をしても失敗ばかりの主人公(イーサン・ホーク)はアメリカへの逃亡を夢見て銀行強盗を企てる。

 幼い娘を持つ銀行員の女性を含む3人を人質に籠城、スウェーデン国内は大騒ぎに。事件をライブ中継するテレビ映像を多くの国民が固唾をのんで見守るという事態となる。

 長髪のカツラに付け髭、映画『イージー・ライダー』風の革ジャンに革パン、足元はカウボーイブーツ、目元はレイバンという田舎者丸出しの主人公。ライフルとともに持ち込んだトランジスタラジオからはボブ・ディランが流れ、逃亡用に要求したクルマはフォード・マスタングという具合に、主人公は無邪気にアメリカを夢見ている。

 当時スウェーデンとアメリカの外交関係は政治的緊張下にあったが、スウェーデンの若者の多くはアメリカ文化に憧れていた。これは日米安保で揺れる日本でもアメリカに憧れた若者が多かったのと同じだ。

「実際の犯人も、スティーブ・マックイーンが主演した『ゲッタウェイ』を観ていたことがわかった。ロマンチックにアメリカに憧れていたんだ。だから僕もロマンチックな思いを込めて70年代を振り返りたかった」。そう言うロバート・バドロー監督は、本作のイーサン・ホーク主演の、ジャズのレジェンド、チェット・ベイカーの伝記作品『ブルーに生まれついて』で話題になった。監督自身も相当のポップミュージックマニアらしい。ディランの楽曲を使用した理由を聞くと、「僕はディランの全てが好き。10代からファンで、ライブに何度足を運んだか知れない。彼は時代と共に生まれ変わり続けている。『新しい夜明け』を冒頭に流したのも、ディランの曲で当時の文化の雰囲気を示したかったから」。

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