北朝鮮による拉致被害者、蓮池薫さん(55)の兄・透さん(58)が拉致問題の解説本を出版した。5年ぶりに政権復帰した安倍晋三首相(58)への直言も盛り込んでいる。
「経済制裁を始めたのは、安倍さんが官房長官だった2006年でした。以来6年以上、民主党政権の間も制裁を続けましたが、拉致問題はまったく進展しなかった。安倍さんも私も58歳。同い年だからあえて言いますが、首相には、自分たちが始めた制裁だけでは問題が前進していないことを率直に認めて反省してほしい。これまでの制裁にどれだけの効果があったのかを検証し、新たな考え方で交渉に当たるべきだと思います」
透さんは1997年に発足した拉致被害者家族会で事務局長や副代表を務め、北朝鮮批判の急先鋒と目された時期もあった。だが薫さんの帰国以降、北朝鮮との対話を求めるよう主張したことから、2010年に「家族会の総意と違う」として退会させられた。
ただ、最近は家族会メンバーからも北朝鮮との交渉を求める声が出始めた。横田めぐみさんの父・滋さん(80)は昨年出版した著書で、「制裁制裁といっても全然解決していない。金正日(総書記)が亡くなって交渉のチャンスが来たんだから(制裁を)緩めるべきです。強化すると、交渉したくないという意思表示になる」と記した。透さんも心配を募らせる。
「再び政権に就いた安倍さんが、『圧力に軸足を』と言って制裁強化をアピールすると、対話を求め始めている被害者家族は困ってしまう。首相と対立するわけにはいきませんから」
※週刊朝日 2013年2月22日号