林:俳句は夏井いつき先生という方が出てきて、けっこう皆さんに浸透した感じですけど、短歌はちょっとハードルが高いというか、おハイソな方がやるものだという感じがあるじゃないですか。俳句はまだ庶民的な感じがしますけど。
俵:ハードル高いですか? 私、角川短歌賞の選考委員もしてるんですが、そこも若い人たちが多いですよ。俳句ほどではないかもしれないけど、短歌も表現方法として若い人のチョイスの一つになってるのかなという手ごたえを感じます。
林:短歌は枕詞(まくらことば)がありますよね。あれを使えるといいんですけど、難しいですよね。
俵:枕詞とか序詞(じょことば)とか、古い技法はいろいろありますが、短歌は俳句の季語のような決まりはなくて、五・七・五・七・七の型だけが決まりなので、そんなに難しく考えなくても大丈夫です。
林:若い人は、悪ふざけした狂歌みたいなのもつくりますけど、あれもありなんですか。
俵:ありですね。若い人のリズム感ってすばらしくて、「句またがり」とか「句割れ」というんですけど、五・七・五・七・七で意味が切れずに、またがるのがすごくうまいんですよ。私もわりと好きな手法でよく使うんですが、たとえば下の句で「何か違っている水曜日」みたいに「何か違って」で切れないで、「違っている」ってまたぐんですね。強調にもなるし、この感覚がちょっと気持ちいいんですけど、これのもっとアクロバティックなことを高校生でもやってくるので、やるなあと思って見てるんです。
(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)
俵万智(たわら・まち)/1962年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、国語教師に。86年、「八月の朝」で角川短歌賞を受賞。87年、第1歌集『サラダ記念日』を出版、翌年、現代歌人協会賞を受賞。同作は280万部を超えるベストセラーに。2004年『愛する源氏物語』で紫式部文学賞、06年『プーさんの鼻』で若山牧水賞。『オレがマリオ』『チョコレート革命』など著書多数。最新刊は、『未来のサイズ』(KADOKAWA)。現在、宮崎県在住。1児の母。
※週刊朝日 2020年11月27日号より抜粋