「全日本ジュニアという大きい舞台で最終滑走になるのは、ものすごい緊張もあった。前の人達もいい点数をたくさん出していたので緊張はしたんですけど……とりあえずその緊張はいったん置いておいて、今までノーミスできた自分の演技をしっかり思い返して『自分なら大丈夫』と言い聞かせて演技しました」(松生)
ショート・フリーをミスなくまとめて優勝した松生の演技には、磨き上げてきた美しさがあった。ショートでは直前に滑った柴山の好演技の余韻が残る中堂々と滑り、会場の空気を自分のものにした。またフリーでは、極限まで高まった会場の緊迫感を、優しい曲調に溶け込むスケーティングで柔らかく緩めていくような素晴らしい滑りをみせている。フリーについて、松生は次のように語った。
「この曲は、男の人と女の人のボーカルが両方入っている曲。男の人と女の人が愛しあって、いろいろな障害を超えて最後は一緒になる、というストーリーを自分の中で考えてやっている」(松生)
ストーリーを動きや表情で表現するのは難しかったと松生は語るが、その苦心は演技構成点での評価につながっただけではなく、観客の心も動かした。
今季全日本シニア強化合宿に参加した松生は、そこで同じ班だった坂本花織から多くのことを学んだという。
「一歩一歩の伸びがすごいな、と感動した。それを少しでも真似できればいいな、と思って練習しました」
「比べたら全然足元にも及ばないんですけど、でも膝を曲げて柔らかく滑るところは、前よりは少し成長したかなと自分では思います」(松生)
学んだスケーティングの技術をどう生かすかが大事になると思っていたという松生は、この全日本ジュニアで自信を深めている。
「ジャッジスコアを見て、前の試合よりも点数が伸びたので『自分の練習が評価してもらえているんだな』と思って、すごく嬉しかったです」(松生)
小学生・中学生や高校生、各世代の若いスケーターが、それぞれの個性を見せてくれた全日本ジュニア選手権。これからの日本女子が切磋琢磨して伸びていくことを、予感させる大会だった。(文・沢田聡子)
●沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」