TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、文芸評論家・加藤典洋さんについて。
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昨年亡くなった文芸評論家、加藤典洋さんを追悼した特別番組『ねじれちまった悲しみに』が本年度放送文化基金賞ラジオ番組最優秀賞を受賞し、NHKで再放送された(『ザ・ベストラジオ2020』10月30日)。
民放、公共放送の垣根を越え、NHKは各種コンクールの受賞番組をそろえてこの種の企画を組む。TOKYO FM以外に南海放送、青森放送と各圏域の放送を全国のリスナーに聴いて貰える企画だ。
「大学のゼミでお世話になった先生が亡くなったんです」とTFMの営業局社員が僕に声をかけてきた。「特番できませんか? 金は作ります」
彼の早稲田大学時代の恩師が加藤典洋さんだった。加藤さんは平和主義を唱えながら軍事国家米国に従属する日本の「ねじれ」を指摘し続けてきた。戦時中、父親が特高だったこともあり、加藤さんは戦後日本の政治体制への複雑な眼差しを持っていた。だからこそなのだろう。終始憲法九条と付き合い、日本のねじれを問い続けた。
番組は都内各地を歩きながら考えていくスタイルをとった。思想そのものをラジオで問う試み。心の内面を表現するのはラジオの得意技なのだ。
若い盟友の山本周五郎賞作家、小川哲君に声をかけた。語りは女優の藤間爽子さんと、若い世代を中心に置いた。昨年の夏の参議院選挙目前、憲法改正を敢えて争点としない当時の安倍政権の目論見を炙り出そうと取材を始めた。
終戦記念日の靖国神社、参院選真っ盛りの三軒茶屋、麻布十番、福生まで足を延ばしアメリカ軍横田基地、そして、最後は先の大戦で遺族に引き渡すことのできなかった遺骨を安置している千鳥ケ淵戦没者墓苑へ。小川君は加藤さんの著作を携え、東京の夏を歩き、鋭い感覚で言葉を紡いでそこかしこに残る「ねじれ」の一端に触れていった。