安全保障をめぐる日本とアメリカ。与党と野党、政治と文学、改憲と護憲、そしてジェンダー問題。東大入学式の祝辞で「ねじれ」という言葉を使った社会学者の上野千鶴子さん、UCLA教授マイケル・エメリックさんら、生前の加藤さんと向き合った人を訪ね、戦後風化し、他人事となってしまった日本の来し方、在り方にこだわる加藤さんの姿勢を見つめ直した。
企画の発端を作った加藤さんの元ゼミ生は「物事は白か黒かに分けられないことが多い。その中間に大切なものがある」と諭されたという。卒業後、文芸評論の道に進んだゼミ生は「どんなことがあってもバッターボックスに立ち続けろ。孤独を恐れるなと励まされた」と。
自分の言葉で考えなさい。わからないことを受け入れ、自分の言葉で悩み続ける。他人の言葉で簡単に受け入れるな。番組を通してそう加藤さんから教わった気がするという小川哲君は本作の放送文化基金賞最優秀賞受賞の一報を受け、「僕たちはこれからも、永遠に『戦後』を生きることになるでしょう。加藤さんの言葉を通じてこの事実について考えるという無謀な番組に、光が当たったことを光栄に思います」とコメントをくれた。
小川君の、この「無謀」という言葉がことのほか嬉しかった。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2020年12月4日号