医療技術が進んだ現代について、早稲田大学教授で生物学者の池田清彦氏は「昔だったらとっくに死んでいるような人が、点滴や胃瘻(いろう)によって生かされているのはムダだと思う」と指摘。さらに「80歳を過ぎて寝たきりになっている人を無理に生かし続けるのは病人に対しても失礼」だと話す。
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人工呼吸器と点滴につながれて、胃瘻で栄養を無理やり摂らされて生かされている人は、いったいいつ死ぬのかよくわからない。生物学的にはともかく、人としてはすでに死んでいるのだ。
死ぬべき時に死なせてもらえないのは、肉体的にも苦痛なのである。点滴を続けさせられると体の中に処理しきれない水分があふれ、痰がひっきりなしに出て、肺や腹腔に水がたまり、大げさに言えば溺れているような状態になるのだ。点滴をしなければ、体中の水分を使い切って、尿も出なくなり、枯木のようになっておだやかに死ねるはずだ。わざわざ苦しむために医療費を使うのはバカげている。
80歳を過ぎたらがんの治療も極力しない方がいい。このコラムで何度も紹介した近藤誠によれば、がんは手術したり抗がん剤を投与したりするから、末期に疼痛で苦しむので、無治療で放置すれば、痛みはないか、あってもわずかだという。あげく、無治療でも治療しても余命に大した差はないというのだから、多大な医療費を使って治療するのは本当に愚かだ。昔は老衰で亡くなる人が多かったが、そのかなりの部分は実はがんだったのではないかと近藤は言う。
※週刊朝日 2013年3月1日号