昼間は餃子屋だったのに、夜に行くとバーだった…そんなお店が今増えつつある。成功させるには、秘訣があるようだ。
銀座にあるうどん酒場「銀三」は、昼はうどん屋、夜は居酒屋、と顔を変える。入り口には女性の身長ほどもありそうな巨大提灯、壁にはマジックペンでの落書き…と、銀座にありながらも雰囲気は「大衆酒場」だ。
昼は、そのレトロな風貌そのままに、手頃なうどんを提供する。天ぷらをのせたうどんが、並盛り480円だ。ところが夜は品数が大幅に増え、カルボナーラ風やペペロンチーノ風も出る。
昼夜両立には、工夫が必要だった。うどん料理を得意としたため、「昼だけでなく夜もうどんを」と考えたが、うどん屋で酒を飲む気分にはなれない。うどんと相性のよい「天ぷら」を夜の看板メニューにしようと考えたが、「天ぷら屋」になるとぐっと敷居が高くなる。「天ぷらを串に刺して『串天』にしたらどうか」という案が、いまの銀三につながった。串揚げを想起させる親しみやすい響きが、大衆酒場の看板メニューにフィットした。
このように昼夜違う店には、昼と夜で別の看板が必要になる。でも多くの店は、こう失敗する。
「どうせ毎日14時から仕込みをするのだから、少し早く来てランチをしてはどうだろう」「そうね、自慢の料理を安く提供したら、夜にも足を運んでくれるかもしれない」
千円のランチを50人に提供すれば、5万円は稼げる。でも昼の数時間のためにアルバイトを確保するのは難しく、店主や夜のスタッフが長時間労働を強いられるケースも少なくない。手元に残った1万円程度の利益額に、さらに疲弊する。飲食コンサルタントの子安大輔さんはこう指摘する。
「成功のカギは、名物商品を昼夜で別々につくること。でもしっかりした軸を持たないと、仕入れや調理の手間ばかりが増えてしまいます」
その点、銀三はうまかった。夜の代表メニュー「串天」は、うどんのトッピングの天ぷらを使っている。昼の食材はすべて夜のもので賄われているが、メニューは違うから昼夜の両方に訪れる客も多い。客単価は昼の600円に対し、夜は2500円と4倍強。違うメニューといえど、同じ店に4倍も出費する心理は、昼夜違う顔が生んだものだ。
※AERA 2013年2月25日号