■人よりテクノロジーに
仕事の移行については、野村総合研究所の梅屋真一郎氏も経済産業研究所の藤和彦・上席研究員もほぼ同じ意見だった。ただ、現場で起きているのはそう単純な話ではない。梅屋氏がこんな話をしてくれた。
「飲食や宿泊のサービス業ではこの半年間、労働投入量(労働時間)とアウトプットに、過去のトレンドからみると1割弱くらいの乖離(かいり)があります。一定のサービスを提供するのに、余計に労働時間がかかっています。消毒や料理の小分けなどが必要になっているため、サービスを提供する際に、今まで以上に手間がかかっている可能性があるということです」
であれば、こうした業界でも従来以上に労働力が必要とされるケースもあるだろうが、やはりここでも鈴木氏が言及したDXとの関係が出てくる。
「もっと人を雇わなければいけないか、テクノロジーを使って生産性を上げるかのどちらかの選択になります。どちらの選択でもいいと思いますが、人を投入すればコストがかかる。企業にとってはテクノロジーをうまく使って今の人員でなんとかしましょうという方向に向かうでしょう」(梅屋氏)
こうした産業構造の転換を伴ってやってくるのが大失業時代というわけだ。
では、その痛みを少しでも軽減させる手立てはないだろうか。藤氏は、国や地方自治体などが率先して雇用を作り出すことが必要だと考える。注目するべきは、医療や介護の分野だ。
■今は財政規律ではない
10月23日に閣議決定された20年版の厚生労働白書によると、医療福祉の分野で働く人たちは65歳以上の人口がピークを迎える40年に全就業者の2割にまで膨れ上がるという。すでに担い手不足が問題となっている分野でもある。
「欧米でのコロナの感染拡大や中国で今後起きるかもしれないバブル崩壊などを考えると、外需に依存することはできない。日本の多死社会、超高齢社会を支える人材を国や地方自治体が公務員として雇い身分を安定させ、所得水準も北欧並みに上げるべきでしょう。日本の経済学者は供給サイドの話ばかりやって構造改革をしてきましたが、それでは需要は生まれにくい」
そのための財源は、どんどん国債を発行してまかなえばよい、というのが藤氏の考えだ。米国では2020会計年度(19年10月~20年9月)の財政赤字について、過去最大の3兆1320億ドル(約330兆円)に上る見通しで、赤字幅はリーマン・ショック後の09年度の2倍を超える。
「財政規律の話は今は優先順位は低いです」(藤氏)
雇用を守ることは、命を守ることだ。総合的、俯瞰(ふかん)的に考えれば、「自助」を押しつけるべきではないだろう。(編集部・小田健司)
※AERA 2020年11月30日号より抜粋