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リアリズムを追求した写真家・土門拳の芸術文化への功績を記念し、写真文化・写真芸術の振興を目的に創設された「酒田市土門拳文化賞」(主催:山形県酒田市)。この第26回受賞者が決定した。受賞したのは仙台市の海老名和雄さん(77)。受賞作は30枚組みのカラー写真で構成された「『恵みと試練』-丸森 2019-」だ。
選考委員で写真家の藤森武さん(土門拳記念館学芸担当理事)は、受賞作についてこう評した。
<海老名さんは2019年4月から宮城県南部の丸森町にある養蚕農家2軒で繭作りを詳細に記録撮影してきた。その記録写真だけでも貴重な組写真となる。撮影のさなかの10月に大型台風19号が丸森を襲い大災害が発生した。海老名さんは養蚕農家が心配で被害の現実を撮影した。取材中の1軒は養蚕室が壊滅的な打撃を受け、後に廃業に追い込まれたという。結果、台風は思いがけないドラマ(物語)を演出してくれた。丸森には養蚕農家が5軒あるという。中山間地域の生活と限界集落に近い地域での問題点が浮き彫りとなったのである。30枚の組写真の難しさを克服した見事な写真群である>
受賞した海老名さんには賞金50万円と賞状、賞牌が贈られる。
酒田市土門拳文化賞は1994(平成6年6月)に創設。国内在住のアマチュア写真家を対象にしているが、応募作品は10枚以上30枚以内で構成された組写真(プリント)が必須。画像の合成および加工は不可、さらに400字以内の作品解説文が必須になるなど、撮影の力量はもちろん、写真の構成力や洞察力も問われる賞として知られている。選考委員の顔ぶれも、土門拳の弟子だった前出の藤森氏のほか、写真家の江成常夫さん(九州産業大学名誉教授)、大西みつぐさん(前大阪芸術大学客員教授)と、重鎮が名を連ねる。
26回目を迎えた今回は全国から145作品が寄せられた。授賞式は来年3月7日に土門拳記念館(酒田市)で行われる。受賞作品展も同所で来年3月6日から4月18日まで開催される予定だ。
なお、土門拳文化賞奨励賞も3作品選出された。受賞作品と受賞者は以下のとおり。
・「沈黙の声」藤吉修忠さん
・「連綿の片(RENMEN NO KAKERA)」和田喜弘さん
・「寄り添って」荒井俊明さん
(AERA dot.編集部)