「わたくし、テレビはほとんど見たことがないけど、この番組は、確か“お笑い”とか“バラエティー”とかいう、そういう種類のものなんでしょう。この人たちは漫才師なんだかでプロで何年も食べてらっしゃる方々なんだから、いろいろ注文はつけないで彼らを信頼してやりましょう」

(浅草キッド著『お笑い 男の星座2』より)

 語彙が豊富で機知にも富む浅草キッドの2人には全幅の信頼を寄せており、その子さんの会社の部下がクレームをいれようとすると逆にその部下を叱ったほどだったという。ただ、浅草キッド以外のタレントとの共演だとご機嫌ななめになることも。その子さんは芸能界においては素人だが、芸の良しあし、ホンモノを見抜く目は持っていたとういことだ。

 こうしてブームに向かうわけだが、深夜番組の人気コーナーからお茶の間のアイドルになるには大きな転機があった。「その子ライト」の“発明”である。しかし、その説明の前に、その子さんの人生の別の側面を少し紹介しよう。

「やせたい人は食べなさい」
 
 これは、1980年に出版され、ミリオンセラーになったその子さんの著書のタイトルである。ブームで「鈴木その子」を知った35歳から45歳くらいまでの人は、美容、化粧品のイメージが強いかもしれないが、その子さんの原点は「食」。50代、60代には独自の食事理論を確立した人として知られる。

 その子さんが創業した会社SONOKO(以前はトキノ)は今でも、商品展開は食品がメーン。会員に対する通信販売が大きなウエートを占めるが、ロングセラー商品はその子さんが考案した献立だ。カレーやビーフシチューなどのおかずがセットになっていて、ごはんや調味料などを自分で用意する仕組み。献立は、食品添加物は不使用でノンオイル調理が基本。このSONOKO式のモットーは、我慢しないで、食べてきれいになること。今はやりの糖質カットダイエットとは異なり、炭水化物をとることをすすめている。

「体の中から健康をつくるために、正しい食事にもどすというのがSONOKOの原点。会員の方の中には、摂食障害に苦しみ、食べることが恐怖だった人も少なくないのです。何かを抜く、何かだけだべる、というダイエットは一時的には痩せるかもしれませんが、後から体に不調がきます。鈴木その子に出会って食べられるようになって、救われたという人が多いんですよ」

 と話すのは、2019年6月に8代目の社長に就任した宇田川裕昭氏だ。SONOKOは現在、丸亀製麺で知られる東証1部上場の「トリドール」の完全子会社。宇田川氏も当初は同社の社員として事業に携わっていたが、その延長で社長に就任したという。

「その子さんに恩返しがしたいという会員の方が多く、その子さんが作った会社だからと、歴代社長の名前をフルネームが言える人が珍しくない。そこまで大切にしてもらえるのは、小売りのビジネスでなかなかありませんよ」

 とはいえ、自然食品、無添加、体にやさしいとうたった商品はちまたにあふれている。会員制の通信販売も珍しいものではない。ただ、その子さんのビジネスには唯一無二のストーリーがあった。

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家族の死を胸に秘め、事業にまい進