「コンビニ百里の道をゆく」は、51歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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リモートワークなど在宅時間が増えたことから、読書需要が高まっています。ローソンでは、今年5~9月の文庫・書籍カテゴリーの売上高が前年同期比で約2割、埼玉、神奈川、広島の3県24店で展開する「書店併設型店舗」では、約4割増加しました。
国内の書店は年々減少しています。一方、いわゆる「成人向け雑誌」を子どもも訪れるコンビニで取り扱うことの是非が問われ、原則として取り扱いを中止したこともあり、置いていた場所をどう活用するかの議論が出ていました。
街中から本との接点がなくなる傾向が進む一方、ネット上には便利な書店があります。ですが、そこからはリアルな本の質感や雰囲気は感じ取れません。最終的にリアルとネットのどちらを選ぶかはお客様が決められることですが、そこに本があるという「におい」や「体験」を大事にしたい。そう考え、2014年から書籍専用棚を設置する店舗を増やし、今では全国約4900店舗にまで広がりました。
当初は本の卸である取次から送本される書籍を並べていました。専用本棚を作ってからは、マーチャンダイザーが1冊ずつ市場のニーズを読んで仕入れています。新刊中心の店や、価格が手ごろな文庫の多い店など、さまざまです。
本社があるビル内のローソンでは、ある女性社員に「好きな本や雑誌を自由に置いてみてほしい」とお願いしています。オフィスビルですが、ビジネス書はあまり置いていません。周辺に住んでいる方も多く、新刊や小説なども充実させています。ここでヒットした本があれば、他店にも展開していきたいです。
予期せぬコロナ禍で生活圏が小さくなり、家から一番アクセスのよい店がコンビニという方も増えました。食や日用雑貨と同じく、その地域の方に欲しいと思っていただけることを第一に、書籍売り場も充実させていきます。
竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長
※AERA 2020年12月14日号