

作家の室井佑月氏は「Go To キャンペーン」継続に異議を唱える。
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友達や知り合いから、「新型コロナウイルスはどうなっているのだ」と尋ねられる。たぶん、あたしがマスコミ業界に身を置く人間だから、新しい情報が入ってないかそういうことが聞きたいんだと思う。「新聞以上に知っていることはない、ごめん」と答える。でも、新聞を読んでいると見えてくることもある。
新型コロナウイルスに対し政府は一貫し、運任せのような方針だ。彼らの興味はそこじゃないから。
11月27日、衆院厚労委員会で、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が、「個人の努力に頼るステージは過ぎた」と訴えた。
あの政府とべったりな尾身さんが、である。背筋が寒くならないか? 尾身氏は菅政権肝いりの『Go To キャンペーン』を「旅行自体が感染を起こすことはない」などと専門家としての立場から語って、アシストしつづけてきた人間だ。その彼が『Go To』の足を引っ張るような意見をいう。それはコロナの感染拡大の地獄は今ではなく、この先だと踏んだからではないだろうか?
このまま菅政権に忖度(そんたく)していれば、近い将来、国民から断罪され自分の立場が危うくなると思ったからでは? 政府の意向に従ってきた臆病な彼だもの、その予想は絶対に近いものだったはず。
というような恐ろしいことを想像していたら、政府は『Go To トラベル』を来春の大型連休直後まで延長するみたい。11月30日の読売新聞オンラインによると、今年度第3次補正予算案は、政府の観光支援策『Go To トラベル』を来春の大型連休直後まで延長することなどを柱とするそうだ。
石の下にいる虫のようにぜんぜん前に出てこない菅首相は、11月26日のぶら下がりで、こんなことをいっていた。
「この3週間がきわめて重要な時期だ。マスクの着用、手洗い、3密の回避と、感染拡大防止の基本的な対策にぜひ協力をいただきたい」
寒くなり急激に増えつつあるコロナの第3波を、マスクと手洗いで乗り越えよ、とあたしたちにいったのだ。その上で『Go To』はつづける。
なにしろ、自分の後ろ盾の二階幹事長は全国旅行業協会(ANTA)の会長。もちろん、菅首相も二階幹事長も莫大(ばくだい)な税金を投入し『Go To』事業でもうけさせた業者から献金をもらっている。
それに東京五輪をなにがなんでもやりたいから『Go To』を止められない。こちらは五輪後、国威発揚され、その後の衆院選挙は楽に勝てる算段らしい。1兆6千億円以上の「コンパクト」五輪な。
彼らの汚い思惑の前で、あたしたちの命や健康はなんと軽いことよ。
室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中
※週刊朝日 2020年12月18日号

