
AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
『脳はすこぶる快楽主義 パテカトルの万脳薬』は、「人は集団でいるほうが魅力的に見える」「O型は自殺が少ない」など、2012年から続く「週刊朝日」の人気連載を収録した最新の科学的知見を楽しくつづる、池谷裕二さん3冊目のエッセー。著者の池谷さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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「数学嫌いを決めるのは遺伝が40%」「男性は育児をすればするほど好きになる」「浮気性のオスは脳内のV1aRの量が一途なオスより少ない」など、脳についての最新の知見がギュッと詰まったエッセー集だ。
池谷裕二さん(50)の朝は学術論文のチェックから始まる。枕元のスマホで、毎日新たに発表される100本から200本に目を通す。
「最初は眠くても、この論文は面白い、これも面白いとなって、寝ていられなくなるんです。目覚まし薬ですね」
そして、毎週1千本以上の論文の中から1本を選び、エッセーを書く。
「面白い論文があると人に言いたくなっちゃうんですよ。学生とか、料理をしている妻に話すんですけど、全然聞いてない……。だからエッセーを書くことは僕の中で重要な出口になっています。これがなかったら、ストレスがたまって酒におぼれてますね」
自身の研究の一つでは、ネズミに英語とスペイン語を聞き分けさせている。ネズミは、最初は人工知能の助けを借りて聞き分け、正解してエサをもらうが、それをくり返すうちに、人工知能がなくても、どちらの言語か識別できるようになる。
「人工知能と脳をくっつけることで、潜在的な能力が引き起こされるんです。私の中にも、まだ有効活用されていない脳の活動が絶対あるはず。それを何とか開拓したいというイメージです」
この本には遺伝の意外な話も多い。人間の遺伝子は、定住を始めた約1万年前から急激に多様化したという。