もし私のところへ両親や兄がやってきても、理解のある夫だけは「追い返してやる」と言ってくれていますが、日々、両親や兄の呪縛に怯えて暮らすのはたくさんです。
鴻上さん、私を1ミリも愛していない両親や兄のために、いつか涙を流さなくてはならないのでしょうか?
鴻上さんのアドバイスを切にお願いします。
【鴻上さんの答え】
ゆずさん。僕が何を言うか、聡明なゆずさんはもう分かっているでしょう。
ゆずさんは、自分で自分の人生を切り拓いて来たのです。
両親を看取る義務はありませんし、まして涙を流す義務もありません。
「引っ越し先の住所も新しい電話番号も、子供が生まれたことも、何もかも知らせ」ず、ここまで頑張ってきたゆずさんが、それでもいまだに「両親や兄の呪縛に怯えて暮ら」していることに僕は驚きます。
それだけ、「親を大切に」とか「子供を愛さない親はいない」というようなイメージが、文化として強く浸透しているんだと思います。
それは、「親に愛されたい」という思いが強烈に子供の心にはあるからだと思います。その刷り込みがなぜ生まれるのか、生物学的理由なのか文化的理由なのか僕には詳しくは分かりません。
ひとつ言えるのは、日本は、僕が繰り返し言うように「世間」から成り立っています。「家族関係」は、「世間」を成立させる重要な要素のひとつです。「絆」とか「信頼」を強調することは、「世間」を守ろうとすることでもあります。
「親の愛」を強調することで、「世間」という共同体は強くなるのです。
刷り込みの理由は、はっきりとは分からなくても、世の中は、愛に溢れた親だけではないということは、はっきりしています。そんな相談が毎月、たくさん、寄せられます。
生物学的に親と子であっても、経済的にも精神的にも理性的にも良心的にも人間的にも魂的にも、親になってない人はいるのです。
ですから、ゆずさん。
もうこれ以上、苦しまなくていいのです。
ゆずさんは、自分の人生をしっかりと生きていけばいいと思います。
ゆずさんの傍には「追い返してやる」と言ってくれる理解ある夫がいるんです。なんて幸福なことでしょう。
もう一度言いますね。ゆずさんには、両親を看取る義務はありませんし、まして涙を流す義務もありません。
ゆずさんは、親も兄も関係のない、ゆずさんの人生をしっかりと歩んで行って下さい。それが一番、素敵なことです。
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