「日本史が好きで、いろんな日本史の本を読んできました。でも、固有名詞がとても多く、最後までなかなか読み通せませんでした。ならば固有名詞をできるだけ使わず大局的に、日本の歴史を描いてみようと思いました」
日本史には難解な武将や仏像の名称が多い。歴史の深さを物語り、日本史好きには魅力であるのだが、歴史全体を把握する一つの壁になっている。
一方、細部にこだわらず、大きな視点で見ると日本史のダイナミズムが感じられ、スッと理解できると古市憲寿さんは考えた。
「面白い日本史が読みたい!という一言に尽きます」と力強く語る。
ただ、歴史の専門家ではないので、本書『絶対に挫折しない日本史』(新潮新書 880円・税抜き)は、こうやって日本史を読んだら、わかりやすいし、面白いんじゃないですかという提案ですと話す。
その上で日本史全体を、バラバラに生きていた人々が権力の下にまとまる「古代」、そのまとまりが崩壊していく「中世」、再びまとまる「近代」と三つに分けて解説。
なかでも中世は、公家、武家、寺社などが権力を争い、各地で戦が起こり、さらに敵と味方が絡み合い、この国の姿が見えにくい時代である。「崩壊していくのが中世」と捉えると合点がいく。
「『まとまる→崩壊する→再びまとまる』という流れを知っておくと、より日本史を理解できるはずです」
こうして“神的視点”を手に入れ日本史全体を把握し、さらに古市氏ならではのユニークな比喩で解説していく。
一例を挙げると、古代、各地に同じような前方後円墳が造られたのは、町の雑貨店がセブン‐イレブンに鞍替えし、中央のヤマト王権のフランチャイズになるのと近いと解説する。セブン‐イレブンの一員になるとロイヤリティは取られるが、流通網が利用でき、さらには地域住民からの信頼を得やすい。前方後円墳を造り、ヤマト王権がバックにいることを示すと領地経営も安定する。
前方後円墳の特殊なデザインはセブン‐イレブンのロゴマークに近いものだと。
通史では巨視的に見てきたが、歴史は多角的に見たほうがよいと、「コメ」「家族」などのテーマでも歴史を振り返る。
コメについて考察していくと、主食になり、全国的に米食の比率が高まるのは約100年前のことだと日本人とコメの意外な関係を証す。
「僕たちが伝統だと思っていることも、実は新しいことが多くあるのです。大きく見ていくことでわかることもあるのです」
また本書には、日本はいつ終わるのかの未来までも書かれている。
では、コロナ禍の2020年をどう見るのか。
「医療技術の発達した現代日本で新型コロナウィルスの影響は限定的だと考えられる」
と考察している。
「いつの時代も悲観論が出ますが、イノベーションで乗り越えてきました。未来の歴史教科書が今年をどう描くか興味深いですね」
(本誌・鮎川哲也)
※週刊朝日 2020年12月25日号