基本的には収入のある高齢者の負担を増加させる方向です。

 また政府の方針として象徴的なのが「70歳定年制」です。「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、21年4月から「70歳定年制」が企業の努力義務となります。
 
 ご存じの人もいると思いますが、25年4月からは全企業に「65歳定年制」が義務づけられます。具体的には「65歳まで定年の引き上げ」「希望者全員を対象にした65歳までの継続雇用制度の導入」「定年制の廃止」のいずれかの措置が企業の義務となりました。
 
 70歳定年制は現状、あくまで努力義務で4月から70歳定年を制度化するものではなく罰則などもありません。ただこの制度は、65歳定年のさらにその先を見据えたもので、将来の年金制度の改正にもかかわってくる政府の方針を示したものと考えていいかもしれません。

※70歳定年制は正社員としての雇用だけでなく、業務委託契約、事業主が実施する社会貢献事業への従事なども含むほか、定年廃止など様々な対応があります。

■外国人労働者の「年金払い損」を縮小する「脱退一時金」

 これは、直接自分の職場環境に関係ない人も多いと思いますが、外国人労働者の社会保障の改正についても参考までに説明しておきたいと思います。

 政府は、すでに現実問題となっている少子高齢化にともなった労働力不足について、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた施策を進めています。その一環として21年の4月から施行されるのが国民年金・厚生年金の「脱退一時金制度の見直し」です。
 
「脱退一時金」とはあまり耳慣れない言葉かもしれません。簡単に説明すると日本の年金制度に加入した外国人労働者が「年金の払い損」になってしまわないための仕組みで、帰国時などに申請すれば支払った年金額に応じて一定額が本人に払い戻されます。

 実は事業主ですら「外国人労働者も社会保険に加入するのを知らなかった」という人もいるのですが、法人化している事業者や一定の従業員規模の個人事業者は基本的に所定労働時間など加入資格を満たしている場合は、誰であれ健康保険と厚生年金に加入させなくてはいけません。

※アメリカ、イギリス、ブラジルなど一部の国(現在20カ国)とは国家間で協定(社会保障協定)を結んでいて、その協定が適用できる外国人労働者であれば5年以内の赴任期間の場合、年金の加入が免除される特例もあります。

 外国人労働者も加入する年金ですが、年金の受給資格期間である10年を満たさないまま帰国すると、これまで最大3年の支払い分しか脱退一時金の対象ではなかったのですが、これがこの4月から5年に引き上げとなります。これは19年4月に改正された出入国管理法により在留期間の上限が5年になり、3~5年間、日本で生活する外国人が増えているためです。
 
 労働力確保のために外国人労働者の環境整備をする施策の一環といえます。

 今年以降は、不妊治療や待機児童の減少など少子化への対応、元気な高齢者への就労支援や社会保障費の負担拡大、また外国人労働者の社会保障の拡充など、もっと具体的に「人口減」に対する政府の対応が見えてくるようになると思います。

 次回も引き続き生活を安定させるための社会保障の基礎知識について解説したいと思います。

(構成・橋本明)

※本連載シリーズは、手続き内容をわかりやすくお伝えするため、ポイントを絞り編集しています。一部説明を簡略化している点についてはご了承ください。また、2020年12月22日時点での内容となっています。

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