参加者はバスを降りると、夢風を見上げて、一斉に歓声を上げる。「ああ、私の風車。初めて見た」。みんなで寄付金を出したから、だれにとっても「マイ風車」だ。

 高さ80メートル、3枚のブレード(羽根)は40メートルあり、羽根の先までは120メートルになる。「夢風とふたりで一緒に」写真に納まろうとすると、風車の根元からできるだけ離れなければならない。

「みんな、遠くに散らばっちゃうから、なかなか交流会の開会式が始まらないんです。この10年くらいで、この街には、風車がたくさんできたけれど、これだけ大きな人の交流を生んだ風車は夢風だけ」(桜井さん)

 毎年冬になると、芹田の人々はにかほ特産のイチジクの甘露煮や象潟(きさかた)うどんなどを持って、首都圏4都県の生活クラブの店舗で売り歩く。夏には数十人規模の組合員が、家族連れでにかほ市にやってくる。60世帯余りしかない芹田の集落から半分以上の人が出かけてきて、夢風の根元で100人規模の歓迎バーベキュー大会をやる。

「夢風ブランド」の開発にも注目が集まる。生活クラブ東京の増田和美・理事長は、ここ数年、仲間とともにタラの魚醤を使った「タラーメン」のリニューアルに取り組んできた。地元の伊藤製麺所、日南工業と共同開発した。このほか、ハタハタオイル漬け、日本酒「夢風」もある。

 夢風は、たんなる風車ではなく、地域の架け橋となった。(ジャーナリスト・菅沼栄一郎)

>>【後編/「温室効果ガス排出ゼロ」を目指すも自然エネルギーに立ちはだかる「送電線の容量不足問題」「先着優先ルール」 試される政府の本気度】へ続く

AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号より抜粋

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