市民風車「夢風」は都市と地方の新たな関係性を作り出した(写真:GFA提供)
市民風車「夢風」は都市と地方の新たな関係性を作り出した(写真:GFA提供)
AERA 2020年12月28日-2021年1月4日号より
AERA 2020年12月28日-2021年1月4日号より

 菅首相は「温室効果ガス排出ゼロ」に向け、本格的に舵を切った。「自分たちが使う電気は自分たちで作る」。そんなエネルギー自治の動きが加速している。AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号では、風車によるエネルギー自治を取り上げた。

【国内に誕生した「市民風車」26カ所はこちら】

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 秋田県にかほ市。雪をかぶった鳥海山を見上げる海岸に市民風車「夢風」が回っている。地元・芹田(せりだ)地区の前自治会長、荒川定敏さん(73)は、夢風を眺めるのが日課だ。

「けさは吹雪だったけど、元気よく回っていたよ。冬の日本海はね、風が強いんだ」

 夢風の稼働は2012年3月。市内の小学校から名前を公募、6年生の女子児童が名付けた。4億円あまりの建設費のうち、1760万円は首都圏4都県の生活クラブ生協の組合員9614人の寄付だ。

 同市は県内でも風況がよいことで知られ、仁賀保高原を中心に75本の風車があるが、市民の寄付で作られたのは今のところ、夢風だけ。以来、8年余りにわたって毎年470万kWh(1300世帯分)の電力を首都圏に届けてきた。

 菅義偉首相は就任直後の10月の所信表明演説で「2050年までに、温室効果ガス排出ゼロを目指す」と宣言したが、生活クラブは以前から、省エネや自然エネルギーの開発に取り組んできた。

 09年に生活クラブ神奈川が風力発電の検討を始め、翌年、首都圏の東京・埼玉・千葉の単協も加わった。当初は反対もあったというが、11年3月の福島第一原発事故を機に「自分たちが使う電気は自分たちで作ろう」という流れが加速したという。夢風を保守・管理する市民風力発電(本社・札幌)は、市民出資などによる風車を北海道や秋田県など全国26カ所38基運営しており、「エネルギー自治」は各地で進んでいるが、夢風はなかでも特別だ。

 夢風は年間売電益から約300万円が首都圏の組合員と地元住民の交流に充てられている。地域住民や生活クラブの会員にとって、今や単なるエネルギー施設以上の存在となった。生活クラブ神奈川の副理事長、桜井薫さんは、建設1周年の交流会を、昨日のことのように思い出す。

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