「確かに、若いうちに大きな地震や今回のコロナのような経験によって、大切な時期に大切な人と過ごせなかったり、本分とは違うことに時間を奪われてしまうことは、可哀想だし大変だろうなと思います。ただ、若いうちに揉まれたことは無駄にはならないはず。今はつらくても、いつかそれを乗り越えた自分を褒めてあげられる日が来るんじゃないかな。私だって、今日より明日がいい日になるという確信があって生きてきたわけではありません。むしろ、具体的に夢とか希望とかがなかった分、明日とか来週とか、近い将来に自分を喜ばすことを見つけて、日々を重ねてきました」

 そう言ってから、「実際に50代になってみると、中身が16ぐらいから変わっていない事実に愕然としています」と続け、朗らかに笑った。なるほど、これぞ自然体。時代とつかず離れずの距離感が心地いい。(菊地陽子 構成/長沢明)

小林聡美(こばやし・さとみ)/1965年生まれ。東京都出身。82年、大林宣彦監督の映画「転校生」で初主演。ドラマや映画、舞台で活躍する一方、著書も多数出版。最新刊は『聡乃学習』(幻冬舎)。映画の主な出演作に「かもめ食堂」(2006年)、「めがね」(07年)、「プール」(09年)、「マザーウォーター」(10年)、「東京オアシス」(11年)、「紙の月」(14年)など。21年3月、出演映画「騙し絵の牙」が公開予定。

週刊朝日  2021年1月1‐8日合併号より抜粋