その明快なネーミングセンスも相まって、一目置かれる存在になってきた。
「AO義塾」。読んで字のごとく、AO(アドミッション・オフィス)入試を専門とする学習塾だ。AO入試は、一般的な学科試験ではなく、大学側が求める人物像や学生像と照合して合否を決める。その入試方式に特化したカリキュラムを特徴とする。「校舎」は東京・代々木駅近くにあるマンションの一室だ。
塾長の斎木陽平さんは、慶応義塾大学法学部政治学科に在籍する大学3年生。自身もAO入試で受験し、合格。2010年にAO義塾を開校した。
「AO受験では、大学に入って何をしたいかだけではなく、その後どんな人生を送りたいかなど、個人としての総決算を求められました。将来の夢を実現するために何を学ぶのかといった、人生設計を考えるのがAO入試です。受験で得たこの素晴らしい経験を、もっと多くの学生に知ってほしかった」
強い理念は合格実績にも表れる。13年度のAO入試実績として、慶応大の法学部には64人、総合政策学部と環境情報学部には34人が合格。わずか2年で、「全国トップクラスの合格率になった」と斎木さんは自信を示す。群馬から通う生徒もいれば、宮城や福岡からオンラインで受講する生徒もいるほどだ。
懸念もある。AO入試を行う私立大全体の、競争率の低下だ。
「世間ではAOは学力が低いのではと言われ始めている。実際に高い競争心を持って受験に臨めるのは極端な話、早慶レベルくらい。倍率が1倍前後の大学もあると聞く。『AOならば受かる』という風潮も否定できません」(斎木さん)
AO入試の競争率が高い大学と低い大学との「二極化」が、年々顕著になってきたのだ。それは、高校が在学中の成績や活動実績などをもとに推薦する推薦入試もしかり。ある有名大学は、AO方式の非学力型入試に学力テストを課す推薦制度を今年度から廃止した。大学関係者は理由をこう話す。
「近年、一般入試で合格する自信はない生徒が、秀でてもいない課外活動やスポーツ能力を掲げて応募する例が増えていた」
また、現在もAO入試を継続している有名私大の関係者は、さらに辛辣(しんらつ)だ。
「正直、バカが増えた。学力テストがないAOで(入学の)チャンスをもらえたと錯覚している生徒が多い」
※AERA 2013年3月25日号