渥美清さん主演の「寅さんシリーズ」で監督を務めた山田洋次さん(81)は、渥美さんの死に方に感動を覚えたという。がん診療とともに、養生にも造詣が深い帯津良一医師(77)との対談で次のように話した。
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帯津医師(以下帯):渥美さんご自身はC型肝炎があって最後は肝臓がんが肺に転移して亡くなったんですよね。
山田さん(以下山):ええ。あの人は腹がすわっていましたね。亡くなった後で聞いたんですが、奥さんと子どもさん2人に夜、「お父さんの人生は寅さんの仕事をあと2、3回やっておしまいだよ」と、ちゃんと話していたそうです。「でもこれは誰にも言っちゃいけない。親戚にも。俺が息を引き取るまで、一切言うな」と。実際にご家族もそれを守られた。
帯:覚悟ができていたんですね。「死ぬときは野垂れ死にがいい」とも言っておられましたね。役者として、人知れず死ぬんだと。で、倒れているところを見つけた人が、「あれ、この人役者じゃないか」。
山:そうそう。「近頃、渥美はどうしたんだい、顔見ないね」「あれは死んだよ」っていうのが理想だった。死んだ後に人に負担をかけたり、大騒ぎされたりするのはイヤ。現役で仕事をしているんだからマスコミが騒ぎ立てるだろうけど、「ともかく、骨になって家に帰ってくるまで一切、誰にも言うな。あとは山田監督に連絡して任せなさい」、そう家族3人に言ったそうです。
帯:奥さん、そのとおりになすったんですね。
山;そうです。奥さんから電話がかかってきて、「昨日、主人が亡くなりました」。びっくりして腰が抜けそうでした。病気のことは知ってはいましたけど……。見事な死に方ですね。
※週刊朝日 2013年3月29日号