「高校時代までは学習指導要領の下、系統立てて物事を教わりますが、大学の学問には範囲に限りがありません。私にとって大学時代は、科学としてまだ解明されていないことの多さに気付き、目標のために今、自分が何を学ぶべきなのか、地図を描けた時間でした」
こう語るのは理化学研究所主任研究員の坂井南美さん(40)。宇宙にある分子を電波望遠鏡で観測し、太陽系の化学的起源を探る「星間化学」と呼ばれる分野を専門とする。天文学と化学を融合した視点が評価され、昨年、科学技術振興機構から「輝く女性研究者賞」が贈られた。
幼いころ、父親に天体望遠鏡を買ってもらい、星に興味を持った。東京・桜蔭高校時代、しし座流星群を観測して感激し、天文学の道を志すようになる。第1志望の東京大学には進めなかったが、1年間の浪人生活を経て入学した早稲田大学理工学部物理学科で自分の進むべき道を見つける。
2年生のとき、宇宙分野の研究者と話す機会があり、「宇宙の何をやりたいの?」と尋ねられて答えに窮した。「何も考えてこなかった」と反省。自室にこもり、本を読んで研究テーマを模索する日々が始まった。
たどり着いたのは、「自分たちがどこから来たのかが知りたい」という問い。天文学分野からアプローチしようと、卒業後は東京大学大学院理学系研究科に進学。研究に邁進(まいしん)した。
女性が研究者になる道のりは決して平坦(へいたん)ではない。大学入学時も、同学年60人のうち女性は5人だけ。女子学生の質問を受け付けない教員もいたが、顔見知りの男子に代わりに質問してもらうなど工夫して乗り切った。
「珍しい存在であった分、名前と顔を覚えてもらいやすかったのは良かったです」
コロナ禍では実験が止まるなど研究環境への影響も深刻だ。大学に合格しても、その後のことが心配な人は少なくない。学習の好奇心を保つために必要なことは何か。
「自室にこもる時間も大切ですが、それだけでは思考が停滞してしまう。オンラインでもいいので、雑談の時間を大切にしてほしい。そこから何かしら学びのヒントが得られるはずです」
(本誌・松岡瑛理)
※週刊朝日 2021年1月22日号