昏睡(こんすい)状態に陥ったおじいちゃんの耳元で、家族が必死に呼びかけたら意識が戻った――そんな場面を映画やドラマなどでよく目にする。聴力は年齢を重ねても最後まで機能が残りやすいという。「だからといって油断はできません」と話す耳鼻科の名医・国際医療福祉大学准教授の竹腰英樹氏に耳の若さを保つ方法を教えていただいた。

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 聴力が低下する要因はいくつかありますが、大きな音が聴力の低下を招く「音響外傷」は、近年とくに問題視されています。アメリカ疾病対策センターの予防ガイドラインが記す、音の大きさを表す単位デシベル(dB)ごとの1日あたりの許容時間は次のようなものです。130dB(飛行機の離陸音程度)は瞬時に、106dB(ロックコンサート程度)では4分未満で永久的な聴覚低下が始まります。コンサートが終わったあと耳が「キーン」とするのは、まさに音響外傷の症状。さらに大きい音は、疲労、集中力の低下、胃酸の減少、血圧の上昇、自律神経の失調、睡眠障害につながります。

 もう一つ、聴力の老化を防ぐ上で有効なのが、血液と血管を若々しくすること。耳の奥には毛細血管が帯状に集まる「血管条」があり、音を脳に伝える働きをしています。血管にダメージを与えるたばこやアルコールなどは控えめに。糖尿病と動脈硬化も耳の老化に直結しますので、食生活などで予防を心がけましょう。

 現代人が抱えがちなストレスも難聴の原因のひとつ。ストレスは血管を収縮させるため血液が悪くなります。反対に、血管を鍛えて血の巡りをよくする運動にはいい影響があると考えられています。

 活用していただきたいのは補聴器です。普通の会話が聞きとりにくくなった時点で補聴器を試したほうがいいと私は考えます。

週刊朝日 2013年4月5日号