前出の松嶋さんは、申告の際に見落としがちなものとして「社会保険料控除」を挙げる。
「その年の分の社会保険料だけでなく、その年に払った翌年の『前納分』も、その年の所得から差し引くことができます。子どもや親の分も同じく、控除を受けられます」
健康保険や年金、介護保険といった社会保険料は、負担した全額が所得から差し引ける。社会保険料は、税金と違って、収入から経費を引いた所得ではなく、収入(報酬)をベースとしてはじき出す。控除などもなく、負担は重いだけに、前納分や親族の分も申告しよう。
どれだけ「必要経費」を計上できるのかも、大事だ。より多くできればそれだけ課税所得は抑えられる。
元国税専門官でフリーライターの小林義崇さんは「レシートや領収書がなくても諦めてはいけません」と強調する。
「領収書やレシートは税法で求められているわけではない。残しておいたほうがいいのは確かですが、払った事実を客観的に示せればいい。預金通帳の入出金記録やメールのやり取りなどでも構いません。レシートや領収書が残っていないからという理由だけで計上しないのはもったいない」
前出の佐川さんは、「家事関連費も遠慮せずに活用しましょう」とアドバイスする。
家事関連費とは、家賃や水道光熱費、インターネット料金など「個人用」「事業用」の両方で使っていて、切り離せない支出。申告の際には、事業用として使う割合がどのくらいかを数字で示す必要がある。
「どんな場合にどれくらいの割合にすればいいかといった、はっきりした基準はありません。あくまで実態に応じて、本人の判断で決める。自宅を仕事場として使っている人が家賃の全部を経費に計上するなど極端な例はさすがに認められませんが、税務署に対して合理的な基準を示せるなら、明確に区分けして計上するようにしましょう」(佐川さん)
自動車や携帯電話、パソコンなども、仕事とプライベートで兼用していることが多いだろう。見落としているものがないか、もう一度確認してみよう。(本誌・池田正史)
※週刊朝日 2021年1月29日号より抜粋