自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)には、広汎性発達障害や、アスペルガー症候群などが含まれます。大まかに述べると、ASDの特徴には社会的コミュニケーションの障害、対人的相互反応の障害(たとえば表情や身振りなどによる非言語的コミュニケーションの欠落)、行動・興味・活動などが限定され反復的(何かにのめりこみやすい)といったことが挙げられます。
このようにASDを持っている人は、「対人的相互反応における質的障害」や「コミュニケーションの障害」によって、学校などでの人間関係に支障をきたすことがしばしばあります。しかしゲームなどの共通の話題があると、コミュニケーションが比較的うまくいったりするものです。ASDの症状のために学校では孤立しがちでも、オンライン上のゲーム仲間とは(共通項があるために)楽しく会話できることがよくあります。「行動、興味、活動が限定していて反復・常同的」の性質によって、たとえば依存物ではない(であろう)数学の問題を解くことや科学研究にのめりこむと社会的に成功する確率が高くなると考えられますが、のめりこむものがスマホやインターネット、ゲームなどの依存物だと、依存症により接近してしまいます。
ASDとインターネット依存は、「関連がある」「関連がない」という両方の報告があり、いまのところ結論づけられていません。その一方で、児童精神科外来受診者の報告では、中学生のASDを持つ人の10.8%、ADHDを持つ人の12.5%、ASDとADHDの両方を持つ人の20.0%が、IAT得点70点以上でインターネット依存が疑われたとされています。一般の中学生ではIAT得点70点の人はおおむね数%以内なので、かなり高い罹患率といえるでしょう。患者さんを診ている立場としては、この報告の通り、ASDとスマホ依存(インターネット依存やゲーム障害)は関連しているというのが実感です。
中山秀紀(なかやま・ひでき)
1973年、北海道生まれ。医学博士。医療法人北仁会旭山病院精神科医長。専門領域は、臨床精神医学、アルコール依存症。2000年、岩手医科大学医学部卒業。04年、同大学院卒業。岩手医科大学神経精神科助教、盛岡市立病院精神科医長を経て、10年より独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター勤務。同年、「第45回日本アルコール・アディクション医学会優秀演題賞」受賞。19年、「第115回日本精神神経学会学術総会優秀発表賞」受賞。11年よりネット依存治療研究部門に携わる。同センター精神科医長を経て、20年4月より現職。