「クリスは叔父を介護し、支えているようで、実はクリスも叔父に支えられている。二人は支え合っているんです。誰もクリスを縛ろうとしていないし、何かを押しつけているわけでもありません。それにデンマークでは特に女性が家族の介護を担う、という状況もないんです」
映画のやさしいトーンは、日本に比べて人生の軌道修正がしやすい国の社会制度の手厚さも関係しているようだ。
「デンマークにはさまざまな支援システムがあります。教育は無料なので再び勉強したいときにいつでも受けられ、勉強期間中は助成金が出ます。失業中でも支援があり、再就職も比較的しやすいのです」
常に前に進むことだけが人生ではない。なにかに縛られ、失われた時間を過ごしたように感じても、振り返ればそこに至福があったと人は気づくのかもしれない──そんなことを、この映画は教えてくれている気がした。
◎「わたしの叔父さん」
叔父さんと二人で暮らすクリスの日常に少しずつ変化が──。1月29日から全国順次公開
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フラレ監督はかなりの映画フリークらしい。好きな映画監督を聞くと「トマス・ヴィンターベア監督にミヒャエル・ハネケ監督に是枝裕和監督に……」と次々と名前を挙げてくれたが、なかでも小津安二郎監督には多大な影響を受けたという。
「小津作品はドキュメンタリーのようというか、現実味を帯びていて、まったく古びません。観る側が『観察者』の視点を持つことができる」
筆者が本作との共鳴を感じたのは「晩春」(1949年)だ。
舞台は鎌倉。父(笠智衆)は娘の紀子(原節子)と二人暮らし。嫁に行かない紀子を 叔母(杉村春子)は気にかけるが、紀子は父との暮らしが気に入っているようでその気はなく、楽しげに日々を送っている。だが叔母から「父にも再婚の話があるから」と聞かされた紀子は動揺して……。
父と娘の最後の旅行で、「このままお父さんと一緒にいたい」と娘が吐露するシーンが胸に迫る。父と娘のおだやかな日常の描写は「この生活を変えたくない」という紀子の想いを自然に表し、70年の時を経て「わたしの叔父さん」のクリスに重なる。紀子とクリスが同じ27歳、というところにも注目してほしい。
◎「あの頃映画 松竹DVDコレクション 晩春 デジタル修復版」
発売・販売元:松竹
価格2800円+税/DVD発売中
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2021年1月25日号